被虐の花 10 あきつく
独り取り残される。
つくしが恩義を忘れて、どこかに羽ばたける訳は無い。
「恩義か‥‥」
窓から、空を見る。暗くなった空に月が浮かんでいる‥
恩義などいらない‥愛が、愛が欲しい‥つくしの心、全てを俺で埋めてしまいたい。
窓辺に腰掛け、見果てぬ夢を見る。
たかが数時間、つくしが自分の元を離れるだけなのに、心の中に嵐が押し寄せる。
つくしが消えたら‥‥恐怖が襲う。
類と食事をしているだけだと解っているのに‥
つくしが、2度と戻って来なかったら、そう考えると‥心の中を恐怖が襲う。
雁字搦めになっているのは、つくしなのか? 俺なのか?
時折襲ってくる焦燥感と戦いながら、残りの仕事に取りかかった。
一区切り付いた所で、時計を見ると8時40分をさしている。
ここから、10分ほどの距離だ。
そろそろ帰り支度をするかと、席を立った瞬間‥
RRRRRR‥‥
つくしからの着信音が鳴る。
「はい」
「あっ、あきら?」
電話の相手は、つくしでは無く類だ。
「これ、牧野の電話だよな?」
「‥うん‥‥牧野もう少し借りるね」
プッーープーー プーー
用件だけ述べて、電話が切れる
物言わぬ、スマホをただただ眺め、慌てて電話を折り返す。
この電話は、電波が繋がらない位置にいるか‥
アナウンスが流れる。
何度かけても、同じアナウンスが流れる。
RRRRR
机の上の電話がけたたましく鳴り響く
つくしに付けていたSPの和田からの連絡だ。
「あきら様、大変申し訳ございません‥つくし様と花沢様を見失いました‥‥」
「いつだ‥」
「5分程前に」
バサッ
机の上のものを、手で払いのける
パソコンを起動させ。GPSで、つくしの位置を確かめる。
JIGSにいる事が解り、安堵する。
和田に、JIGSにいる旨を伝えて、電話を切った。
胸がざわついている‥‥
いても立っても居られずに、JIGSに向かった。
* **
JIGSに着けば、類だけではなく、桜子と滋、総二郎に囲まれたつくしがいる。
「ククッ、ホラッ、来た」
「あきら君、元気にしてた?」
「お久しぶりでございます」
「よぉっ、おまえ早過ぎ」
声がかかり、笑い合っている。
「偶然、レストランで3人に会ったんだよ」
偶然などあるわけないよな‥‥どうせ、類が仕組んだのだろう
「皆で、賭けをしたんだよ。あきら、早く見つけ過ぎて賭けになんなかったけどね。ねっ」
気怠げに脚を組み替えて、つくしにしなだれかかっている。
つくしを見れば‥困惑した笑顔を返してくる。
「牧野もそうだけど、あきらも付き合い悪いからさ、たまにはね」
そう言って、類がつくしの髪に、優しく触れた。
その一瞬に、心が乱される。
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