被虐の花 15 あきつく
迫田を受け入れようと覚悟を決めた。
迫田の情婦に、なって借金を清算しよう。そう決めた。
あきらさんがつけてくれた護衛の人の目を盗んでまで‥あたしは迫田に連絡を入れたんだ。
〝 つくしです 〟
〝 つくしちゃん?本当につくしちゃん? 〟
〝 はい。お会いして話したい事があるのですが‥‥ 〟
〝 会いたいって‥本当に? 〟
あきらさんが、東京に戻る日に迫田と会う約束を取り付けた‥
この後の事は、あたしの中に記憶として残っていない。
迫田に会いに行った一週間後にあたしは病院で目を覚ました。
その前の記憶で、朧げに残っているのは、迫田があたしを突き落とす瞬間だけ‥
次の記憶は、病室で、心配げにあたしを見つめるあきらさん‥それに身体の痛みだった。
途中の枝がクッションになってくれて、あたしは複雑骨折だけですんだ。
死ねば良かった‥そう思ったのに、生きていた。
あの日、あきらさんは
「俺のせいだ‥俺の‥」
そう言って、あたしの傍に居てくれた。
違う‥あたしが会いに行ったの‥
喉まで出かかった言葉を呑み込んでしまった。
呑み込んでしまった言葉のせいで、あたしは、その日から1年間弱言葉が出なくなった。
不憫なあたしを放っておけないと
あきらさんは、毎日の様にあたしを見舞ってくれた‥
*****
「つくしさん、もうじき美作さんのご登場ですね〜ホント、羨ましい程に、つくしさんにベタ惚れですよねぇー」
看護士さんの言葉に、あたしは、慌てて首を横に振る‥
美作さんは、あたしの事を不憫に思っているだけ。
借金の方に売られそうになって、パパやママの所在も掴めなくなって‥
怪我と声まで失った女を不憫に思っているだけ。
勘違いしちゃいけない‥
美作さんと、あたしでは身分が違う。
身分不相応な事は、不幸がつきまとうと、自分の心を戒める。
病室だって、こんなに立派な所と固辞したのだけど‥
「ゴメン。流石に他の人がいる病室だと‥」
そう言われて、好意に甘えている。
正直、喋れないあたしには、億劫がなくて有り難い。
日中は、本を読みながら、後は美作さんを待って病室で過ごす。
いつの間にか‥あたしの中は、彼で埋め尽くされて行く。
時計の針が、7時半を示す‥
ガラッ 扉が開く音がする。
「ただいま」
お土産を持って帰ってくる。
2人で一緒に、夕餉をしたためる。
メモ帳に
忙しいから、毎日来なくても大丈夫だよ‥それに毎日病院じゃ疲れちゃうよ?たまにはお家に帰った方がいいよ
そうしたためれば
「っん?ここに来ないと俺、なんも飯食べなくなっちゃうけどいいの?」
意地悪く返される。
ダメだよ ちゃんとご飯食べなくっちゃ
「じゃぁ、毎日帰って来ないとね」
優しく笑う。
朝、会社に出かけて、夜来てくれる。
美作さん曰く‥来るんじゃなくて、帰って来るんだよと。
お休みの日は、朝から晩まで一緒に過ごしてくれる‥
彼が、隣で仕事をしているのを、少しずつ手伝うようになった。
そんな些細な事が嬉しくて堪らない。
散々迷惑を掛けているのに‥‥
あたしは、幸せで幸せで堪らない。
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