被虐の花 16 あきつく
つくしがホテルの部屋から消えたと連絡が入ったのは、会議中だった。
会議が終えるまで、俺はそれを知らずに過ごした。
つくしは、忽然と姿を消していた。
探しても探しても、手がかりさえ見つからず、ようやく見つかったのは、一週間後だった。
迫田の別荘につくしは居た。
迫田に薬を飲まされ、一週間抱かれ続けていた。
俺が部屋に押し入った時、つくしは、嬌声をあげ、目をうつろにしながら抱かれていた。
縛られ、鞭で打たれ‥痴態の限りを尽くされていたのだろう、身体中に痣と、縄の跡が残っていた。
迫田に、殴り掛かろうとした瞬間‥迫田は、ベランダからつくしを突き落としたんだ。
つくしが、朧げに覚えているのは、ベランダから突き落とされた瞬間からだ‥
迫田の元で、抱かれ続けた事は、幸いな事に記憶には無い。
幸い?本当は、辛い事でも受け止めさせなければいけなかったのかもしれない‥
**
時計の針が7時を過ぎる頃、牧野の居る病室に帰る。
最初は、息が止まってしまったら、そう思うと心配で心配で、家になど戻れなかった。
その内‥呼び名が牧野からつくしに変わる頃、
つくしの居る病室が俺の帰る場所になっていた。
「ただいま」
言葉を忘れたカナリアは、美しくにっこりと微笑み俺を迎え入れてくれる。
この瞬間の為にだけ、俺は生きている。
そう思うほどに、幸福感に包まれる。
一緒の時間が快い。
時折、心配そうに家に戻れと言うけれど、
俺の帰る場所は、つくしの元だけだ。
そう言葉を返せば‥彼女は、困ったように微笑む。
***
身体の傷が癒えた頃‥
俺の居ない日中に、
つくしは自分の身体を傷つける事を繰り返すようになる。
SPを付かせているので、大事にならずに済んでいたが‥
目が、手が、心が離せない。
つくし本人は、その瞬間の事を覚えていない。
精神科の医師は言う。
心が、幸せを怖がり続けていると‥
空白の1週間を埋める為に‥
発作的に何度も自分を痛めつけるのだと、
言葉が出ないのも、心の中に空いた穴のせいだと。
「荒治療になりますが、空白の1週間の出来事をきちんと思い出させる事が、必要かもしれませんね」
だけど‥牧野を失いそうになった俺には、現実を受け止めさせる事など出来なかった。
俺は、根本的な解決は後回しにして、お前のポッカリと空いた穴を、俺で埋めてしまったんだ。
結果‥
つくしは、被虐される事を求めるようになった。
被虐される事によって生を感じる‥‥
己を追い詰めることによって、生を感じ、快楽を得る。
間違っている‥
だけど‥
被虐の花を咲かす彼女は、美しく妖艶だ。
責め苦を受ければ受ける程、美しく咲くアイツに‥俺は魅せられている。
幸せを受け止める心を、精神を、もう一度つくしに取り戻させたい。
だけど‥俺は怖い‥
一人で立てるようになった彼女が、俺の元から去って行ってしまう事が‥
俺は怖い‥
真っ暗闇の中、ローズムーンが微笑んでいる。
いつの日か、この月をつくしと2人でみたい‥そう願って、瞼を閉じる。
*ストロベリームーン=イチゴの収穫のないヨーロッパでは、ローズムーンと言うそうです♪♪
紅く光るお月様の存在、コメントで教えてもらって初めてしりました。
年に一度、月が紅く輝くんですって。
そんな月を恋人同士が一緒にみると幸せになるんですって。素敵な逸話
今年は夏至と合わさっていつもよりも真っ赤に燃えたとか。
くぅー見たかったなぁー
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