紅蓮 23 つかつく
どこへ? 何しに?
それに、逃げたとしても、どうせ連れ戻されるだけ‥
連れ戻されれば、地下牢が待っている。
挙げ句の果ては、一生屋敷から出られない。
惨めな気持ちになる夢想は、止めにしよう
自分に言い聞かせる‥
逃げても何一つ良い事など無いんだと。
ならば、山下の言う通り、心を殺そう。
伽藍堂の木偶に戻ろう。これ以上傷つかないように‥
少しでも自由を勝ち取る為に、心を殺そう。
寝返りを打った宗谷が、あたしのいない事に気が付いた様で、
「つくし、どこだ」
そう呼んでいる。
「はい。ただいま‥」
あたしは、駆け寄る宗谷の元に。
宗谷は、あたしの姿を見つけ安堵したのか、あたしを抱き締めながら、眠りに入る。
「つくし‥逃げても必ず掴まえるからね。バカな事を考えてはいけないよ」
そう呟きを残して‥
あたしは、この男の執着が怖い‥
翌朝、目覚めると、既に宗谷の姿はなく、代わりに山下があたしの起きるのを待っていた。
「つくし様、おはようございます」
「山下、おはよう。宗谷は、お仕事?」
「はい。左様でございます」
だったら、もっと早く起きれば良かった。
うーん、折角の朝の時間を無駄にしてしまった。
山下に頼んで、一人でシャワーを浴びる。
髪を、身体を一人で洗う。3年ぶりの開放感が漲(みなぎ)る。
ローブを羽織り、朝食を頂く。
「つくし様、午後には屋敷の方に、ごりょん様がお見えでございます」
「えぇ、とても楽しみ。今度はどれくらい滞在されるのかしらね?」
「十日ほどと、承っておりますが‥」
十日間‥半分くらいは、お外に連れて行って頂けるかしら?
楽しみで、ワクワクしてくる。
「つくし様‥」
「解ってるわ。宗谷の前では見せないでしょ」
「左様でございます」
山下がにっこりと微笑みながら、お茶を淹れてくれる。
宗谷は、自分が与えること以外のものに、関心が向くのを極端に嫌がるのだ。
十日間きちんと楽しむ為に、少しお利口になろうと、あたしは思う。
二人きりの気安さから、あたしは山下に一度聞いてみたいと思ってた事を聞く。
「ねぇ、山下…宗谷のお姉様とあたしは、そんなにも似ていたの?」
「お姉様?」
「えぇ、宗谷の異母姉の美繭様」
「……美繭様が、つくし様とでいらっしゃいますか?」
「えぇ‥」
「どうでしょうか‥私は、あまり似ているとは感じませんが‥」
「そう‥」
宗谷は、あたしと異母姉がそっくりだと、あたしを愛してた‥筈‥
なのに山下は、宗谷の異母姉とあたしは、あまり似ていないと言う。
一体どういう事なのだろう?
宗谷が異母姉を愛し、慕っていたから、あたしはこの屋敷に嫁いだのに‥
足元から、何かが崩れて行くようだ‥
「つくし様どうされましたか?」
「あっ、いえ‥」
なら何故‥宗谷はこんなにも、あたしを縛り続けるのだろう‥
わからない…
「ねぇ山下、宗谷はあたしが何をしたら喜ぶと思う?」
「つくし様がおねだりされるのを、ご主人様は、ことのほかお喜びかと思いますが…」
だったら、一番喜ぶのは何?山下に問う。
「一番でいらっしゃいますか?」
しばらく考え込んでから、大変差し出がましいかと思いますが‥
と前置きの後、つくし様のご懐妊かと思います。そう言った。
「赤ちゃん?何故そう思うの?」
「つくし様のプレッシャーになるかと思われて、何もおっしゃらないかと思いますが、月のものの有無と、つくし様の排卵日を聞いて参ります故‥」
宗谷の子供など孕むわけがない‥
あたしの身体には、避妊リングが入っているのだから‥
だけど‥
あと一年で、効果が無くなる。その前に施術をして貰わなければいけない。
一人で行動出来る自由を、得なければ‥ 心が焦る
避妊をしているのがばれたら?
即刻リングは、取り払われ、種付けがされるのだろう…
宗谷の子供を宿す?
身の毛がよだつ程の恐怖を感じる‥
生涯、あたしに自由がなくなるのだ…
身体だけでなく、心も…宗谷に囚われてしまうのだ。
子供という鎖で‥
心が、泣き叫んでいる。厭だ…怖いと。
無口になったあたしに、授かり物ですから、ご心配しなくても、大丈夫でございますよ。
そんな風に山下が慰めてくる。
この女も、二階堂と一緒なのだと思う。
所詮、宗谷の犬なのだ‥
どこの世界に、嫌いな男の子供など、孕みたいと思う女がいるのだろう?
あんなにも必死に訴えたのにも関わらず、何も解ってなどいなかったのだ。
↓ランキングのご協力よろしくお願い致します♥


♥ありがとうございます。とっても嬉しいです♥
- 関連記事
-
- 紅蓮 26 つかつく
- 紅蓮 25 つかつく
- 紅蓮 24 つかつく
- 紅蓮 23 つかつく
- 紅蓮 22R つかつく
- 紅蓮 21 つかつく
- 紅蓮 20 つかつく