紅蓮 24 つかつく
喉の渇きは潤っても、心の渇きは潤わない。
「ねぇ山下、ごりょんさんにお土産を買っていきたいのだけど‥」
「それは宜しゅうございますね。何に致しましょうか?」
「ねぇ、ケーキはどうかしら?それでね、その時一人でお店に入って、選んでは駄目かしら?」
つくし様なりません‥咎められるかな?‥そう思った次の瞬間‥
ホテルの中の洋菓子店でなら良いとの許し貰う。
山下とSPが店の入り口付近に目立たぬように、待機している。
あたしは、一人で店内に入り、ケーキを選ぶ。
色とりどりに並んだ、宝石のようなケーキ。小さな子供のように、ワクワクドキドキしながら一つ一つ吟味する。
あたしの手には、お財布が握られている。嬉しくて嬉しくて笑みが零れる。
色とりどりに並んだケーキを、店員さんに注文して、詰めてもらう。店員さんが魔法使いのように、綺麗に詰めて行く。宝石箱のようだと嬉しくなりながら、お財布を開けて、支払いをする。
自分で選んで、お金を払う。当たり前の事なのに、当たり前じゃない行為に幸せを感じる。
大きな箱を抱えて、お店を出る。山下が慌てた様子で駆け寄ってきて、箱を受け取る。
「山下、ありがとう。久方ぶりの買い物‥とても楽しかった」
「それは、宜しゅう御座いました」
あたしは、どんなケーキを買ったか興奮して説明する。
「山下のは、ズッパ・イングレーゼというのにしたの。あたしとお揃いよ」
「それは、楽しみでございます。ご主人様の分は何を買われたのですか?」
今の一言で、折角の楽しさが半減する。
「宗谷は、洋菓子は食べないから‥」
「つくし様が、お選びになられたと知ったらお喜びで、お召し上がりになられるかと思いますよ」
「じゃぁ、エクストラメロンのショートケーキ」
どうせ食べやしないんだから、なんでもいいじゃないかと思いながら、
一番高かったケーキの名を述べる。
すごく高級なメロンが乗ってるって言ってたから、宗谷が食べなかったら、あたしが食べようなんて考えながら。
「つくし様‥ご主人様のことを第一にお考え差し上げて下さいませ」
山下が、目を伏せながらあたしに言ってくる。
なんだ、やっぱりこの前の話‥憶えていたし、理解していたんだ。ふっ、それでも子を孕め‥か‥
山下も、結局は宗谷の宗谷家の犬なんだ。
ウキウキと楽しく輝いていた気分が、消し飛んで行く。
どの宝石よりも、輝いていたかに見えたケーキの輝きが消えていく。
SPの一人が山下に近づき、何やら囁いている。山下が、慌てた様子で‥
「宗谷さまがお迎えにいらっしゃっているようでございます」
そうあたしに告げてくる。
手足が急に重たく感じる。手に足に縄が絡まった感覚に囚われる。
ホテルのロビーには、色とりどりの花が飾られている。ロビーを横切った瞬間‥
懐かしい薫りが鼻腔を刺激する。あたしは、後ろを振り返る‥‥
あたしの時が止まる。時間の流れが止まる。
愛おしい男の後ろ姿が、目に飛び込んで来る。
心に身体に、愛おしさが流れ込んで来る。
あたしの全身から、愛おしさが溢れ出していく。
愛おしい男が、美しい女性(ひと)をエスコートしている。
奥様なのだろうか?
ズキンッ
あたしの心に、身を裂くような凍える風が吹く。
「つくし」
あたしを呼ぶ、宗谷の声がして我にかえる。
宗谷の顔が歪んで見える‥
つくし‥
名前に反応したのか、愛する男がこちらを振り向く気配がする。
刹那‥
花芯のピアスが揺れた気がした。
‥あたしは、醜い
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