紅蓮 38 つかつく
痴態の痕は、全てが片付けられている。
扉の外には、南国の異空間が広がっている。
陽が燦々とさし、蝶々が飛び舞っている。
綺麗 ただただそう思う。
次の瞬間‥司が此処に来る事を思い出す。
昨日の戯れ言葉は全て本当の事だったのだろうか?
宗谷と出会っている?あたしが‥海で?
海の近くなんて住んだ事がない‥
ううん‥違う、あたしは、一時期住んでいた漁村の事を思い出す。あそこで出会っているの?
わからない‥
その時から?あたしを?
その為に,道明寺財閥を窮地に押しやったの?
あたしを手に入れるため?
考えれば考える程に、わからなくなる
美繭さんに似ていたと言っていたのは?
わからない事ばかりだ。
ただ解るのは、異常な程の執着であたしを縛り続けていると言う事だけだ。
「つくし様、朝食のご用意が整っております」
食欲などある筈もなく、いらないと答える
永瀬に嗜められる。
「お召し上がり頂かないと、ご主人様がご心配されます」
目の前の人間が心配だからではなく、宗谷が心配するから食べろ?
ぷっ、あたしは可笑しくなって思わず笑ってしまう。
「ねぇ、永瀬は心が通っていないの?」
「つくし様‥」
「うふふっ、凌さんが心配するから食べろ?それって、違うわよね。ねぇ、永瀬、あたしはあなたに指図される覚えはないわ」
余程、悔しかったと見えて、永瀬が一瞬唇を噛む、
いつもの無表情に直ぐさま戻り
「‥‥大変申し訳ございません」
そう謝ってくる。
「使用人なら使用人らしくして頂戴」
あたしは、千の、いいえ万の刃を永瀬に向ける。
「大変失礼致しました。つくし奥様」
蔑むものが、主に変わった瞬間だったのだろう。この時以降、永瀬は、あたしの事を、つくし奥様と呼ぶようになった。
午前中は、お稽古事で時間が過ぎる。
午後からは、お抱えの美容担当のものが来て、あたしの全身を磨き上げる。
あたしは、醜い身体を晒すのが苦渋なのに
「つくし様のお肌は本当に白くてスベスベでお美しい」
そんな、おべんちゃらも忘れずに付け加えられる。
司を迎え入れる準備が着々と設えらていく。
嫌味にならない程度に、屋敷の至る所に、蝶々をモチーフにしたものが飾られていく。
ガレのランプまで、蝶々が飛んでいる。
黒髪は、まっすぐに降ろし、着物を着せられる。
紅蓮に蝶々が舞っている。
時が経てば人間国宝だと言われている、着物職人に、無理を言って早急に作らせたものらしい。
姿見に愛玩人形が映っている。
あたしは、この姿で司を迎え入れるのだ。
嫌だ‥ あたしの心が叫んでいる。
あたしの美しい思い出まで、踏みにじらないで‥
なのに‥時は刻々と過ぎていく
シャラーン シャラーン
宗谷の帰りを告げる 鈴の音が鳴り響く。
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