紅蓮 39 つかつく
使用人達が、居並んでいる。一番前に立ち宗谷を待ち構える。
鼓動がドキドキと早鐘のように、音を立てている。
あたしは、俯いて、美しく磨かれた爪をみる。
相好を崩した宗谷が、あたしに声をかけてくる
「つくし‥ただいま‥お客様だよ」
顔を上げる‥
あたしの目の前には、愛する男が立っていた。
全てのモノの動きが止まり。音が止まる。
司の目は見れず、一緒に来ていた西門さんを見る。
西門さんの眼差しの中には、複雑な色が浮かんでいる。
「つくしは、道明寺さんとも面識があったよね?」
意地悪く、宗谷が聞いてくる。
「はい。 若宗匠と道明寺様とは、同じ学校でしたから」
あたしは、宗谷にそう答えながら、妻として‥お二人を促す。
「お久しぶりでございます。どうぞ、お上がり下さいませ」
フワリっと 懐かしい香りが漂う。
司の香りだ‥ この香りに何度抱かれた事だろう。
身体の芯が疼く‥
「つくし、私は着替えて来るから、富貴の間の方に、お二方をお通ししておくれ」
従者と共に、宗谷が去って行く。
司と西門さんを、屋敷の奥にある、富貴の間にお通しする。
大きな窓に面していて、浄土式庭園が一望できるお部屋だ。
二階堂が、障子を開け放つと、 ライトアップされた庭園が目の前に広がる。
曲木座椅子に腰掛けて、窓の外を眺める。司の熱い視線を感じる。
司を見つめたい‥
叶えてはいけない‥‥あたしの願い。
気を抜けば、叶えてしまいそうになる、あたしの願い。
司は、いまのあたしを見て何を思うのだろう?
それとも‥もう、あなたの心には、あたしなど存在しないのかしら?
あたしの心が叫んでいる。
アイシテイテ‥
ワスレナイデ‥
地獄に堕ちたあたしは、庭を見る。極楽浄土を呈した美しい庭を。
「美しい庭ですね」
バリトンの声がする。心にすぅっーーと入ってくる低い声。
いつまでも、いつまでも聞いていたい声がする。
涙が、思いが溢れそうになる。
「失礼致します」
声がかかり、酒宴の準備が整えられる。
襖が開き、宗谷が入ってくる。妖艶な笑みを浮かべて‥
他の二人に比べても、勝るとも劣らない美しさを持つ男。
美しい男だからなのか? 指先まで美しい。
日本画を趣味にする男は、美しい指先に筆を携え墨絵を描く。
この部屋に掛けられお軸も、宗谷が描いたものだ。
紅蓮の花に、蝶々が描かれている。
座椅子に腰掛け、小さく囁きがら、あたしの身体を引き寄せる。
「愛する男との再会は、どうだい?」
嬉しそうに一笑いして、司と西門さんと共に、酒を酌み交わしている。
居たたまれないあたしは、爪を弾き、宗谷に指を掴まれる。
「そう言えば、総二郎さんは、来ている縁談を全て断っているそうですね。家元が嘆かれておりましたよ」
「あぁ、はぁっ‥まぁ」
「司さんもご離縁されたとか?花沢さんでしたっけ?彼も縁談を片っ端から断ってらっしゃるとお聞きしましたよ」
指を掴んだまま
「つくしと、出会った男性陣はみな彼女に絡めとられてしまうのですかね?あははっ、そんな事は,私の考えすぎですかね?」
宗谷の楽し気に笑う声が、部屋にこだまする。
それとともに、二階堂の手によって、お軸が掛け替えられる
黒髪の女が、緊縛されている姿絵に
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