紅蓮 55 つかつく
この娘の笑顔を見ていると、なんだか私まで幸せを感じる。
闇の中に生きる人間にとって、彼女は光りだ。
キラキラと輝く光だ。
あぁ‥そうなのね‥
刹那‥
私は、理解した。
私は、この人生から、逃げれぬ事を。
彼女をみて、私は理解した。
彼女と、私は似ている。
いつかの私‥
自由だった私‥
一度、手に入れた眩い光は、人は手放せない。
空を飛ぶ鳥のように、蝶々のように自由だった私を思い出す。
海が凪いでいる‥‥燕が、高く高く空を飛んでいる‥
「自由って良いわね‥‥」
ふいについて出た言葉に、少女は笑って
「あたしなんて、自由しかもってませんよ。
あっ、それも目一杯労働する自由‥って、それって自由?」
そう言って、にこやかに笑った。
自由しかない? 羨ましかった。
欲しても、欲しても、得られないものを、この娘は持っている。
「私もつくしちゃんと2人で、いっぱい働きたいな」
「大変ですよぉー 朝から晩までトウモロコシ焼くのも」
「そうね‥うふふ」
笑いながら、2人でもう一度、真っ青な空と、真っ青な海を見た。
「自由って、この世の中で一番素晴らしいのよ」
「そうですよね‥‥へへっ‥実は‥あたし逃げて来たんです」
首を傾げて、次の言葉を待った。
「どうにもならない思いを捨て去るために、あたし‥逃げて来たんです」
「そうなんだ」
「でも‥もう一度だけ羽ばたいてみようかなって‥」
少女が、少しだけ大人びた表情で海を見つめている。
「さてっ、そろそろ休憩も終わりなんで、帰りますね」
砂を叩きながら
「お姉さんも、羽ばたけると良いですね」
そう言い残して、去って行った。
彼女の後ろ姿を見つめながら‥
羽ばたく? 私が?
そんな事を考えていた。
私の元に、羽ばたくチャンスが訪れたのは‥それから半年後だった。
* **
「‥‥奥様‥つくし奥様」
永瀬の呼び声で我に返る。
「あっ、はい‥‥」
「ご実家様の方から、襲名式のご案内が届いておりますが」
ご実家? 一瞬考えたあとに‥あぁ、西門の事かと思い当たる。
宗谷に嫁ぐ際に、一旦西門の養女になったのだ。
宗谷が望み、西門の家元も家元夫人も望んで下さったのだ。
娘のようにあたしの事を、可愛がって下さったお二人が、
あたしが宗谷に嫁いでも、肩身の狭い思いをしなくても済むようにと‥‥
皮肉な事に、その思いが、あたしの心を縛っている‥
宗谷グループ並びに、宗谷自身が西門を全面的にバックアップしているのだ。
子を孕めと言われ、逃げたいと思った時に‥‥
牧野の両親、西門の両親の事が頭に浮かんだ。
牧野の両親は、元の病院に戻ってきたが、ママは相変わらずの状態だ。
あたしが逃げれば、牧野の両親は路頭に迷い、
西門の両親には莫大な損失がかかってくる。
雁字搦めに、あたしは囚われている‥‥
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