紅蓮 56 つかつく
私の上で、快楽に酔いしれる男を見ながら、思いを馳せる。
私にも、羽ばたくチャンスが回って来たのに‥‥また、こうして囚われてしまった。
私が欲しかったのは、自由だった筈なのに‥‥
私を陵辱し続けたお爺様が病に倒れ、見送ったのは半年程前になる。
お婆様を一人にはしておけなくて、私は宗谷家に残ってしまった。
あの日、あの時‥逃げ出していれば良かった‥
だけど‥私が選んだ人生なのだ。
男の口から、言の葉が紡ぎだされる
「美繭‥もう放さない‥一緒に生きて行こう」
絶望の思いでそれを聞き、私の心は、奈落の底に突き落とされ、私の身体は絶頂を迎える。
凌‥‥私は、あなたを愛していた。
あなたは、穢れてしまったあたしのたった一つの希望だったから。
私の大事な大事な弟。
私は、あなたを穢してしまった。
そして‥あなたは、私の自由を再び奪おうとしている。
どちらが、囚われているのだろうか?
どちらが‘、不自由なのだろうか?
あなたに抱かれ、あなたの下で喘ぎながら、私の心は死んでいく。
一歩一歩、確実に死んで行く。
あなたが、あたしを抱きしめ眠りにつく。
この横顔が好きだった。この手が指が全身が好きだった。
太陽の様に、輝くあなたを愛していた。
「凌‥アイシテル」
私は、あなたの唇に口づけを落とす。
人の道を外れ、それでも生きて行ける程‥
私は、生に貪欲ではなくなってしまった。
あの日、あの時、あの人に言われたように‥
私は、ここを羽ばたいて自由になるべきだったのだろう。
なのに‥それを選ばなかったのが、私の性なのだろう。
幸せになる為には、ココにいてはいけなかった。
今なら解る。私は、羽ばたくべきだったのだと言う事が。
幸せそうに、寝入る凌にもう一度口づけを落とす。
「サヨウナラ‥幸せになってね」
バタンッ
全て、闇の中に葬ろう。
全て、私が持ち去ろう。
* **
「つくし奥様」
永瀬の声がする。
「なんですか?」
「ご襲名式に出られる際のお召し物が出来上がって参りました」
「そう‥‥」
「少し羽織ってみられませんか?」
「結構よ」
「でしたら、昼食は、お庭でお召しがりになられませんか?」
「食欲がないから‥お昼はいらないわ」
「朝も、そうおしゃってお召し上がりになられませんでしたが」
「ごめんなさい‥一人にしておいて頂戴」
「ですが‥」
「もう、下がって頂戴」
近づいた手を払いのけた瞬間‥グラスに手が当り派手な音を立て、グラスが砕け散る。
「申し訳ございません‥つくし奥様お怪我は?」
慌てて、侍女を呼んでいる。
あたしは、グラスの破片を手に取り、そっと袂に隠した。
「ごめんなさい。あとで、スープだけ頂くから、しばらくそっとしておいて頂戴」
「畏まりました」
部屋の中は、片付けられ、永瀬が侍女を引き連れて外に出る。
袂に隠したグラスの破片を、あたしは宝石箱の奥底にしまう。
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