はじめてみよう 3 類つく

コポコポコポッ
？？？？？が飛び交いながらも、氏原さんの申し訳ない顔に何だか居たたまれなくなって、こうしてお茶を淹れている。うーーーん。　出向だから、HANAの社員同様に働かなきゃいけないって言うの迄は理解出来た。

だけど、だけど‥　社長秘書って何言ってるの？

ってか、秘書室の子達の視線が痛いんですけど‥　あぁ、どうせなら淹れてくんないかな‥ったく、面倒だなぁ。　
はぁっーーー　　に、しても‥さすが、役員秘書の給湯室。各種揃えてありますな～
へぇっー　こんなんも置いてあるんだ。コレあたしも飲んで良いのかな？　後で聞いてみようかな？って、誰に？　そうそうそうだった。あたしココでは、孤立無援状態なのよね。　
アローンだったら、お偉いさん達だって自分で淹れてるのになぁ
何が哀しくて、お茶汲みよ。ううん。お茶汲みが嫌な訳じゃない。でもね～なんだか腑に落ちないんだよね。

にしても、グラスも、茶器も　流石に良いのが揃えてあるなぁー。
さっき見た限りじゃ、かなり業績いいもんね。

さて、お持ちしますか‥

トントンッ
「失礼致します。」

至極満足げな微笑みを浮かべる類‥

お茶を出しながら
「先ほどおしゃっていらしゃった件ですが‥」

あたしの言葉を遮るように
「氏原、牧野にアローンの契約書見せてあげて。」

氏原さんが、怖ず怖ずと差し出してきた契約書の中身を見ると‥

出向先‥HANA. CO.,LTD 取締役社長　花沢類　秘書室　　と、明記されている。
反故にした場合、アローンとの契約解除ならびに、損害賠償の旨が表記されていた。

しっかりきっちり、アローン取締役大代表　茜里美　の見慣れたサインと、代表者印が、押されてました。
あははっ、ここであたしが逃げたら、首決定って事か。
はいはい。分りましたとも、半年耐えれば良いんでしょうよ。

親の因果が子に報いと言いますが～　って、関係ないやね。
類とパパ達って仲良かったもんね‥

「牧野、匠は元気にしてるの？」
あっ、やっぱりそこだったんだ‥
うん。ここは冷静に冷静に‥

「あっ、はい。元気にしております。」
お稽古の時、チラッと会ったけど、元気にしてたから嘘じゃ‥ないよね？

「相変わらずなんだ‥」

「はい。」
えぇえぇ、相変わらず西門兄を見習って、一期一会だイェーイで、元気にしてましたよ。
あれから、ギブ＆ティクで、何度も彼女役やってます。

「ふーん。上手くいってるって事だ。」

そう‥あたしは４年前、類に嘘を吐いたんだ。


゜。°。°。°。°。°。°。°。゜。°。°。°。
　

「ねぇ牧野、一緒にフランスに行かない？」
「っん？　今度の夏休みの旅行？フランスかぁー♬　桜子達も誘ってツアーくむ？」

「いや、そうじゃなくてさ」
類の綺麗な瞳が、あたしを見つめた。
あぁ、とうとうその時が来ちゃったんだって、あたしは覚悟を決めて類の次の言葉を待った。

「俺、フランス赴任が決まったんだ。行ったらしばらく帰れない。だから‥一緒に付いてきて欲しい。」
「うーーーん、ダメかな。」

「どうして？」
「仕事が楽しいから‥かな。」
「そっか‥　なら、俺と婚約だけでもして欲しい‥」

「って、類、あたし達お付き合いしてないよ。」
あたしは、わざと笑い話しでやり過ごそうと思った。

だってね、類があたしを望んでくれても、花沢はあたしを望まないよ。
これでも、あたし、道明寺との事で学んだんだよ。
身分違いは、恋止まりで将来なんてないって。

「じゃぁ、付き合えばいい。俺、牧野しか見えない。」

「‥ごめん‥」

「牧野だって俺を好きだろ？違う？」

「ごめん類。あたし‥彼氏が出来たんだ。」

「嘘だ」　

この後、嘘だ、本当だの、言い合いになって‥　
弱味を握ってた、西門家の３男坊　匠　の出番と相成ったんだ。

匠は、「類さんに殺される。絶対に厭だ。」と散々ごねたけど、あたしは匠の弱味に付け込んで、彼氏のふりをさせたんだ。

勿論、匠となんか、何にもありゃしない‥
だって、あたしが好きなのは、目の前の類だったから。

゜。°。°。°。°。°。°。°。゜。°。°。°。



昔の事は、頭の中から追い出して、あたしはニコリと微笑んだ。

「はい。上手くやってます。」
うん。これだって嘘じゃない。
先月は彼女のふりして、憎まれ役やってあげたしね。
そうよ、そう。エロ匠のせいで、盛大に頬を叩かれたんだから。

「へぇー、まだ続いてるんだ。嘘ごっこ。」

えっ、バレてる？　匠の奴、喋った？
って、　類はなにを考えてるの？

「まっ、いいや。うーん。金曜のパーティは、牧野が同伴だから宜しくね。」

綺麗な瞳で、類が笑う。
あたしの大好きなビー玉色の瞳で。



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