空に‥舞い落ちる
雪が降り始めている。どうりで寒い筈だ。
冬の朝、牧野が良く言ってたこんな言葉を思い出す
「うーん、寒いね~絶対どっかで雪が降ってる寒さだよ。」
鼻の頭を真っ赤にしながら、指先に息を吹きかけながら言ってたよね。
ねぇ知ってる? この7年。あんたを牧野を思い出さない日はないよ。
風に吹かれて降る雪は、あの日みた桜の花びらを思い出す。
ひらり、ひらりと舞い降りていた桜の花びらを。
「秒速5センチメートル」を見に行ったあんたは、興奮しながら、
「類、類、桜の花びらって、秒速5センチメートルで舞い降りるんだって」俺にそう言った事があるよね、覚えてる?
「桜の花びらが落ちる速度は、大体秒速2メートルだよ。」
そう返したら、ぷくっ~と頬を膨らませながら
「もう、夢がない。」
そんな風に言って、プリプリ怒ってたよね。
ご機嫌斜めの牧野と一緒に帰り道、二人で桜の和パフェを食べたんだっけ。
美味しそうに、食べるあんたの顔が好きだった。
あんたと一緒にいると、食べ物が美味かった。何食べても美味かった。
うえの桜祭りで食べた、焼きそば、たこ焼き、りんご飴。
初めてだらけの俺にあんたは、目をパチクリさせながら、「今まで損してる。勿体ない」そう連発してた。
リーリーとシンシンを2人で見たよね。
パンダ可愛いけど、案外獰猛なんだって二人で話したね。
いつからだろう? 司に負い目を感じ始めたのは?
いつからだろう? あんたを抱きしめ独り占めしたくなったのは?
「類様‥」田村が珍しい来客を告げて来る。会わないように避けていた来客を。
「ヨッ」司が手をあげて部屋に入って来る。
「まだ会うなんて返事してないよ」
「ケッ、返事なんていらねぇよ。ってか,お前それが8年ぶりに会う親友に向って言う言葉かよ」
何が楽しいのか、ケラケラ笑って俺に言って来る。
「まぁ、いいや。俺、結婚決まったんだわ」
とうとうその日が来たかと覚悟する。はぁっーそれにしてもお前4年後とか言いながら、一体どんだけ牧野を待たせたんだよ。12年か? 凄いよな。
「で、こいつが俺の婚約者」司の後ろから、女が一人美しい所作で挨拶をしてくる。
12年待った牧野を捨てるのか? 俺は、司をじっとみる。
「朝霞 百合亜。朝霞会長の孫娘だよ。牧野の紹介で知り合ったんだ。」ククッ笑いながらそう言う。
百合亜と呼ばれた女が
「つくしは、同じ職場の同僚だったんです。」そう言って笑う。
この女が、牧野と司に割って入って政略結婚じゃないのか?
それなのに、この2人は何故そんなにも、あっけらかんと笑えるんだ?
「類、おめぇ おめでとう の一言ぐれぇ言えよ。」
司が何を言っているのか、俺には理解が出来ない‥
「牧野は良いのかよ‥」俺の口からポツリとそんな言葉が漏れた。
「ハァッ?良いも悪いもねぇよ。最初に俺がフラレタんだぜ?」
うんうん頷きながら、
「つくしちゃんの想い人は、司じゃないわよ? 司‥NYでも物の見事に何度も振られてたもの。」人懐こい笑顔で、百合亜とか言う女が、司を見ながらケラケラ笑う。
一頻り笑った後に‥
「もしかして?あなたが桜の花びらの君なのかな?」そんな事を口にする。
司が横で
「そっか、やっぱりな~お前が原因かよ。くくっ、ったくなぁー、そんなのに何やってんだよお前ら。」
「そっか、そっか、つくしらしいじゃん。それに‥そのお陰で司と私は知り合えたんだし。ねっ。」
***
司が俺の所を訪れてから、1ヶ月が経つ。俺は牧野の全てを調べた。調べたって言ってもすぐに解る事だらけだったけど‥
俺らって、バカなのかもしんないね。
違うか、俺らには必要だったのかもしんないね。このバカみたいに長い年月が。
ねぇ牧野あんた、日本に仕事場変わるんでしょ?
俺も来月から変わるんだよ?
あれから急ピッチで全てを終えさせたから、俺もうフランスには用は無いんだ。
ねぇ牧野、もう覚悟決めなよ。
俺、案外策士だって知ってた?
司と司の婚約者に色々骨折りして貰ったよ。
大河原、三条、総二郎、あきらも協力してくれたよ。
三条なんて、仕事にかこつけて婚約者引き連れて俺のトコまで来たんだぜ?
あんた泣いたんだって? 俺の事を思って泣いたんだって?
「次の日の朝には、ケロッとしていらっしゃいましたから、ご本人は自分が酔っぱらって何を言ったか覚えてないと思いますけど‥」類が好き。愛してる。類しかいらない。そう言って泣いたんだって?
ねぇ牧野、あんたが嫌だって言っても、もう逃げられないよ。
俺んち? 俺、結構優秀なんだよ。
結婚はしない。無理に結婚させるつもりなら俺は花沢を去るって公言してきたんだよ。
それぐらいの自由を許して貰えるくらい働いてるつもりだしね。
親父とお袋には、政略結婚じゃなくていいから、せめて誰か好きな人と共に幸せな人生を送ってくれと懇願されてるよ。
そこに降って湧いたこの話し‥双手を上げて大喜びさ。
それにさぁー あんた、朝霞の孫娘と司をくっつけたキューピッドでしょ?朝霞の爺さんと、司のお袋さんが、あんたの後見人とやらを引き受けてくれたよ。大河原の婚約者の所も、三条の婚約者の所も、あっ、勿論あの二人も、あんたの後見人に立候補して、親父とお袋を驚かせてたよ。
三条は、肩書きが必要なら、私の持ち株分全て譲渡して、あんたを代表にするっていき込んで、大河原がその横で、ちがうよぉ桜子、大河原の養女になって、滋ちゃんの妹としてお嫁に出すんだよーなんて、息巻いてたよ。
親父とお袋は、最後に泣き笑いになりながら、早くあんたに会ってみたいって言ってたよ。
あっ、そうそう、進とパパさんママさんにも伝えておいたからね。
3人とも涙ながして喜んでくれたよ。
ねっ、だからもう逃げれないよ?
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