Yes, I know 類つく
はい、はい‥ その言葉は、昨日も聞きました。
「ねぇ、ちゃんと聞いてる?」
はい、はい‥ 耳にタコが出来るほど、聞いておりますが。
これ以上どうしろと?
「もう、田村には伝えてあるから」
へっ?それってどういう事?
「明日から昼間は、佳代に来て貰うからね。」
ニコッと笑う、旦那さま‥‥
ってか、田村さんに伝えてある?
佳代さんに来て貰う?
えっ、えっ、えぇーーーー
「ちょっ、ちょっ、ちょっとタンマ! あのさぁ、昼間は会社だよ。佳代さんに来て貰うって?」
「会社は、しばらく行かなくていいから。」
「うん?ちょっと意味が解らないんだけど‥」
「意味?解るよね? 安定期入るまで、会社は行かない。以上。」
「うーーーん。だから、それが解んないって事。」
「田村には伝えてあるから、大丈夫。あっ、パーティーもしばらくは田村と出るから。大丈夫だよ。」
あっ、これは願ったり叶ったりで嬉しい‥ けど‥
「女性同伴の時は、母さんにでもお願いするから。」
いやいや、女性秘書さんと行こうよ。
「だから、気にしないでいいからね。」
相変わらずの王子様の笑顔でニコリとしながら話す。
って、その前に‥ それじゃぁ、お義父様困るんじゃ‥
「父さんも母さんも、先ずはつくしを優先しろって。」
クスリと笑う。
「でもさぁ、専務の妻が突然休職なんて、示しがつかないんじゃないかな?」
「っん? つくしさんのためなら〜って、みんな頑張ってくれてるよ。ホラっ、工藤とか蜂須とかが、悪阻でキツい時に、つくしが全部やってあげたでしょ? ああいうの皆見てるからさぁ。」
「で、で、でも‥ あたし、悪阻もないし、なんだか順調だしさぁ」
「うーん。俺は構わないんだけどね、ホラッ、あんた高齢出産とかになるんでしょ?」
「う、う、っうーん‥」
「周りが気になっちゃうみたいだよ。」
周りが気にする。なんて言われると、無碍に断る事も出来ず‥
安定期に入るまで、自宅待機とは名ばかりの休職をする事になった。
「あっ、だったら家の事くらい出来るから、佳代さんには来て貰わなくても大丈夫だよ。」
「うーーーん。それはダメ。あんたのお目付役だって。母さんと父さんからの命令。」
「えっ、無理しないから平気だよ。」
「佳代、すげぇー楽しみにしてんだよねぇー つくし様のお世話が出来るって。」
これまた、楽しみだなんだと言われると、無碍に出来ず‥
斯くして、まんまと類の言われるがままに日々の生活を送る事になる。
花沢から、メイドさんが来てくれて、掃除、洗濯、食事の用意‥
佳代さんがこまごまとした事を全てやってくれる。
つまんない。つまんない。何となくつまんない日々‥
はぁっー。やる事ないって、つまんない。つまんない。
お出かけだって、類が居ない時は、ダメって言うし。
Yes, I know えぇ、知ってました。知ってました。
類が、人一番心配性だって。
でも、でも、
つまんない。つまんない。つまんない。
類の愛情だって、知ってるよ。解ってるよ。
お腹の赤ちゃん、やっとやっと来てくれた子だって知ってるよ。
でも、でも
つまんない。つまんない。つまんない。
同じ妊婦でも、滋さんは2人目、優紀は3人目‥ なんだか2人とも忙しそうだしね〜
桜子は、あたしの妊娠報告のあと、ボンバー先生と何だかいい感じになったみたいで、忙しそうだしさぁーー。
はぁっーーー つまんない。つまんない。何となくつまんないよ。
自慢じゃないけどさ、貧乏暇なしで、ずーーっと働いてきた。
でさぁー、これまた自慢じゃないけど、わりあいと仕事も出来るから頼りにされてきて、類と結婚しても頑張って働いて来た。
なのに、なのに、さぁー‥ あたし要らないんだって‥
つまんない。つまんない。何となくじゃなくて、つまんないよ。
あたしが花沢に入社してからの14年って何だったの? なんて考えちゃうよ。
あぁあぁー。 時計を見るとまだ11時。
いつもだったら、バリバリと午前中の仕事をこなしてる時間だよなーなんて考えちゃう。
***
「つくし様、お茶でもお飲みになられますか?」
佳代さんが、そう声をかけてくれる。
「はーい。」
佳代さんから、類の小さな時の事を色々聞く。
「そりゃー、もう可愛いお坊ちゃまだったんでございますよ。」
類の小さな時に、思いを馳せる。
透き通るような白い肌に、色素の薄いキラキラ光るビー玉のような瞳。
うーーん まさしく ちびっ子王子様だったんだろうなぁ〜
佳代さんが、次から次へと類の小さな頃の話しをしてくれる。佳代さんにとっても、類は宝物のような存在だったのだと感じて、嬉しくなる。
「つくし様と、類様の赤ちゃんをこの手に抱ける日がもうすぐだと思うと、佳代は大変嬉しゅうございます。」
最後は、涙まで出しそうな勢いで、これでは断る事も出来ず‥ 明日の約束をして、夕刻、帰って行った。
隅々まで掃除され、夕食も整えられている。
有り難いのに、お前なんか必要じゃないと言われている様で、涙が出そうになる。
グスンッ うぇ〜ん 久々に泣いて泣いて泣きつかれて寝入ってしまった。
類が、そっとお布団をかけてくれた。
***
次の朝、目覚めると‥懐かしいお味噌汁の匂い
トントントンッと響くリズミカルに響く包丁の音が微かに聞こえる。小さい時から聞いてきた朝の音。
扉を閉めてしまうと何の音もしない筈なのに‥?? わざと開けてあるのか、細く扉が開いている。
ガバッと起きてキッチンに向う。
「ママァ〜」
「つくし、久しぶりー おめでとうね」
進達と、仙台で暮らすママ‥
嬉しくって、嬉しくって、ワンワン泣くと、ママが優しく髪の毛を撫でてくれた。
一頻り泣いたら、スッキリして、ママの用意してくれた懐かしい朝ご飯を頂く。
類から電話があって、あたしが少し情緒不安定になってるから、こちらに来るように頼まれたらしい。
沢山泣いて、憑き物が落ちたあたし。
類の愛情が、深い深い愛情が、しみじみと心に降り注ぐ。
Yes, I know あたしは知っている。
類があたしを愛してるって。心配性になってもなっても、し足りないって知っている。
結婚して初めての年、あたしのお腹に赤ちゃんがやって来てくれた。
嬉しくて2人で喜んだのも束の間、心音が見える前に、お空に帰ってしまった命。
あたしと類しか知らない命。
お医者様には、お母さんのせいじゃないですよ。実らない稲穂もあるように、生まれない命もあるんですよ。
と説明を受けたけど、悲しくて、悲しくて‥何度も泣いた。
その度に、優しく優しく労ってくれた類。
Yes I know あたしは知っている。
中々子供が出来ないあたしが、周りに何か言われないように、矢面に立っていてくれた事を。
Yes I know あたしは知っている。
エコーに心音が写った瞬間に、あたしと一緒に類が涙ぐんだ事を。
心配過ぎるほど、心配してくれるのは、全てはあたしの為だって、解っている。
あたしは、久しぶりにママに甘えて、娘に戻った。
沢山沢山甘えたら、本当は不安だった心が晴れてきて、類の優しい心をしっかり感じた。
類、類が帰って来たら、真っ先にこう言うよ。
「類、大好き」って。
類はきっと 「Yes,I know 」そう答えるだろうね。
類の愛情、この子と一緒に、どーんと受け止めるよ。 だから任せておいてね。
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妻は何かを隠してるの 続編になります。
まだお読みじゃない方は、是非是非併せて読んでみて下さいね。
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