白線 22
タクシーに揺られ、車窓にうつるネオンを眺めながら、あの日の事を思い出す。
***
類と貪るようにして抱き合った翌々日、見知らぬ番号から、一本の電話が入る。
「花沢物産の茜と申します。少々お話をしたい事がございますので、お忙しい所大変恐れ入りますが、お時間を作って頂けませんでしょうか?」
そう言われ、仕事帰りの時間に会う約束をした。
一流ホテルの宴会場が待ち合わせの場所。一対一で話し合うのに、ティーサロンでもなんでもなく、小宴会場。
邪魔が入らない、他者に聞かれる心配がない。そんなところで選ばれたのだろうだろう。
いくら小規模用の宴会場とは言え‥ がらんどうの中にポツリと置かれたテーブルと椅子。
一歩、足を踏み入れた瞬間、一流ホテルなのに、空調が管理されているのに、冷たい風があたしの中を通り抜けた気がした。
おかけ下さい。そう言われ、花沢物産社長秘書の茜圭子氏から名刺を渡された。
茜なんて綺麗な名字だなぁ なんて事を、ぼんやり考えながら、名刺を受け取り、テーブルの手前に置いた。
あっ、あたしも渡した方がいいのなんて、場違いな事を考えて、クスリと笑いそうになった。
仕事関係の人間でもあるまいし、あたしの名刺なんている訳ないのにね。
人は、” 逃げたい ” と思う感情から、意識を逸らすのに、色々な事を思い浮かべるんだと、その時解った。
会う約束を受けた瞬間から、覚悟はしてた筈なのに‥‥ それでも、しっかりと現実逃避するんだと、他人事のように感心した。
「本日、牧野様にお越し頂きましたのは、弊社の花沢類専務との関係でございまして‥」
茜氏の言葉があたしの頭の上を通り過ぎていく。
「牧野様、お聞きになられておりますでしょうか?」
その言葉の次に言われたのが、
「決まった日時での、性欲処理としてなら許しましょう。それ以外は申し訳ないが、あなたを認める訳にはいかない。」
そう、花沢が申しておりまして‥なんて事を、茜氏が伝えて来る。
性欲処理? あははっ‥思わず笑いが零れてしまう。
事務的に話していた茜氏の表情が、一瞬申し訳なさそうに翳った。
「花沢には、縁談も多々来ております‥どうかこちらをお受け取り下さいませ。」
怖ず怖ずと小切手が出された。
小切手には、3千万の文字。
プッ、道明寺の時より2千万安いのか~なんて考えが浮かんでいた。
あの時は、溝鼠。
今度は、性欲処理?
あははっ、あんた達 金持ちは、どんだけあたしを傷つければ済むの?
あたしの全身から、ゆっくりとゆっくりと血の気が引いていく。あたしの心が凍っていく。
「どうか、お受け取りくださいませ」そう言って、手渡された。
茜氏の瞳に、憐憫が浮かんだ気がした‥
その瞳が、あたしの惨めさに追い打ちをかけた。
あたしは、小切手を黙って受け取った。
茜氏が「明日から10日間限りのお受け取りになりますので、どうぞ宜しくお願い致します。」そう言って席を立った。
帰り道、あたしは小切手を募金箱に入れた。
類は、あちら側の人。あたしは類との間に線を引いた‥これ以上傷つきたくないから。
次の日、あたしは初めてネイルサロンに立ち寄った。白のグラデーションネイルは、とても綺麗で少しだけ良い女になった気がした。
**
「すみません‥行き先変更していただけますか?」
そう運転手に告げる。
yasuに、今から行くと連絡を入れる。yasuは「待ってる」そう答えてくれた。
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類と貪るようにして抱き合った翌々日、見知らぬ番号から、一本の電話が入る。
「花沢物産の茜と申します。少々お話をしたい事がございますので、お忙しい所大変恐れ入りますが、お時間を作って頂けませんでしょうか?」
そう言われ、仕事帰りの時間に会う約束をした。
一流ホテルの宴会場が待ち合わせの場所。一対一で話し合うのに、ティーサロンでもなんでもなく、小宴会場。
邪魔が入らない、他者に聞かれる心配がない。そんなところで選ばれたのだろうだろう。
いくら小規模用の宴会場とは言え‥ がらんどうの中にポツリと置かれたテーブルと椅子。
一歩、足を踏み入れた瞬間、一流ホテルなのに、空調が管理されているのに、冷たい風があたしの中を通り抜けた気がした。
おかけ下さい。そう言われ、花沢物産社長秘書の茜圭子氏から名刺を渡された。
茜なんて綺麗な名字だなぁ なんて事を、ぼんやり考えながら、名刺を受け取り、テーブルの手前に置いた。
あっ、あたしも渡した方がいいのなんて、場違いな事を考えて、クスリと笑いそうになった。
仕事関係の人間でもあるまいし、あたしの名刺なんている訳ないのにね。
人は、” 逃げたい ” と思う感情から、意識を逸らすのに、色々な事を思い浮かべるんだと、その時解った。
会う約束を受けた瞬間から、覚悟はしてた筈なのに‥‥ それでも、しっかりと現実逃避するんだと、他人事のように感心した。
「本日、牧野様にお越し頂きましたのは、弊社の花沢類専務との関係でございまして‥」
茜氏の言葉があたしの頭の上を通り過ぎていく。
「牧野様、お聞きになられておりますでしょうか?」
その言葉の次に言われたのが、
「決まった日時での、性欲処理としてなら許しましょう。それ以外は申し訳ないが、あなたを認める訳にはいかない。」
そう、花沢が申しておりまして‥なんて事を、茜氏が伝えて来る。
性欲処理? あははっ‥思わず笑いが零れてしまう。
事務的に話していた茜氏の表情が、一瞬申し訳なさそうに翳った。
「花沢には、縁談も多々来ております‥どうかこちらをお受け取り下さいませ。」
怖ず怖ずと小切手が出された。
小切手には、3千万の文字。
プッ、道明寺の時より2千万安いのか~なんて考えが浮かんでいた。
あの時は、溝鼠。
今度は、性欲処理?
あははっ、あんた達 金持ちは、どんだけあたしを傷つければ済むの?
あたしの全身から、ゆっくりとゆっくりと血の気が引いていく。あたしの心が凍っていく。
「どうか、お受け取りくださいませ」そう言って、手渡された。
茜氏の瞳に、憐憫が浮かんだ気がした‥
その瞳が、あたしの惨めさに追い打ちをかけた。
あたしは、小切手を黙って受け取った。
茜氏が「明日から10日間限りのお受け取りになりますので、どうぞ宜しくお願い致します。」そう言って席を立った。
帰り道、あたしは小切手を募金箱に入れた。
類は、あちら側の人。あたしは類との間に線を引いた‥これ以上傷つきたくないから。
次の日、あたしは初めてネイルサロンに立ち寄った。白のグラデーションネイルは、とても綺麗で少しだけ良い女になった気がした。
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「すみません‥行き先変更していただけますか?」
そう運転手に告げる。
yasuに、今から行くと連絡を入れる。yasuは「待ってる」そう答えてくれた。
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