白線 29
あんなに綺麗に見えたのに、心が変わると見方が変わる‥俯くあたしに、京極さんが、小さい声で「俺に惚れた?」なんて言ってニカっと笑う。
あたしは、前を向いてOL生活6年で培った、ザ作り笑顔を見せてやる。踏ん張れつくし。自分自身を鼓舞する。
「ファインマン本社クリエイティブ部課勤務の牧野つくし と申します。」
親しみ易い笑顔を浮かべる。ふん、どうだ。この笑顔‥お得意先には評判良いんだから
「へぇっー ファインマン本社にお勤めとは、随分と優秀なんですね。あっ、失礼、私は、花沢物産日本支社専務の花沢類です。これからどうぞ宜しくね。マ、キ、ノさん」類の目が昏く昏く光る。
この人は、こんな風に感情をぶつけてくる人だったんだったけ? 頭の中で思い出す。そう、思い出す。だって、この3年近くあたしと類の関係は、肉体のみだから。
居たたまれなくなって、目をそらす。類の靴が目に入る。今日はジョン・ロブ・パリのクロコのドレスシューズなんだ。ふぅーん。お洒落は足元からですか。ははっ 類のシューズクローク‥一体幾ら分の靴が入ってるんだろう? 下世話なあたしは考える。解ってるのは、茜さんが渡してきた小切手で、その靴10足ビスポークしたらお終いだ。
ぷっ、あたしの身体は靴10足分って事かぁ。
3000万なんて、この人達にとっては、端た金なんだよね。あたしの価値より、類のシューズクロークの方が勝ってるって事。とんだお笑い種だ。あたしも随分と安く見られたもんだ。
類の連れの女性が、知り合いに声をかけられたらしく、席を立つ。
3人で残されて、居心地が悪い。
それなのに、それなのに、ヨットハーバーで会った、京極さんの友人と思わしきカップルが、声をかけて来る。
「よぉっ、貴志! あれぇ~君、先週のヨットハーバで会った子じゃん。お前等あの後もしかして、なわけ?」何が可笑しいんだか、ニヤケタ顔して笑ってる。「へぇっー貴志さん珍しいね~」なんてふざけた事を言っている。
類の眉がピクリと動く。 ニヤケ顔のカップルが去って行く。小石の波紋を残して去って行く。大きな大きな溜め息を吐きたい気分だけど、そうもいかない。
あたしは、この場をやり過ごす為に、必死に笑顔を作る。
「マキノさんの着物、とても素敵でいらっしゃる。それもどなたからかのプレゼントですか?」美しい顔の男は、下卑た事を聞いてくる。「俺からです。っていいたいんですけどね~」京極さんが爽やかさ全開で笑う。
「へぇっ~ マキノさんはおモテになられるんですね。」
「えぇぇ。彼女狙い多いんですよ。」
「俺も入れて貰おうかな」唇の意地悪く上がる。
「あははっ、花沢さんご冗談が御上手だなぁー。花沢さんなら選取り見取りじゃないですか」
「京極さんだって、そうじゃないですか?うーん断然、興味が出たな~」
この光景は、何なんだろう? 狸と狐の化かし合い?
チクリ、チクリと心が痛む‥‥
類の連れの女性が戻ってきたのを、合図に京極さんが
「では、まだ挨拶が残っておりますので、失礼致します。」そう類に告げている。
京極さんと共に、挨拶回りをする。前の職場でのお得意様とも話したり、瞬く間に時が過ぎて行く。
「ちょっとお化粧室に行って来ても良いですか?」京極さんにそう言い残し、会場の外に出る。
会場近くの化粧室は混んでいるので、エスカレーターに乗り、上の階に行く。
クラッチバックの中のスマホがぶるぶる震える。何度も何度も震える。スマホには、類の名前で、出ようかどうか悩む‥
刹那‥‥
いきなり腕を掴まれ、「つくし‥」そう声がかかる。
あたしは、前を向いてOL生活6年で培った、ザ作り笑顔を見せてやる。踏ん張れつくし。自分自身を鼓舞する。
「ファインマン本社クリエイティブ部課勤務の牧野つくし と申します。」
親しみ易い笑顔を浮かべる。ふん、どうだ。この笑顔‥お得意先には評判良いんだから
「へぇっー ファインマン本社にお勤めとは、随分と優秀なんですね。あっ、失礼、私は、花沢物産日本支社専務の花沢類です。これからどうぞ宜しくね。マ、キ、ノさん」類の目が昏く昏く光る。
この人は、こんな風に感情をぶつけてくる人だったんだったけ? 頭の中で思い出す。そう、思い出す。だって、この3年近くあたしと類の関係は、肉体のみだから。
居たたまれなくなって、目をそらす。類の靴が目に入る。今日はジョン・ロブ・パリのクロコのドレスシューズなんだ。ふぅーん。お洒落は足元からですか。ははっ 類のシューズクローク‥一体幾ら分の靴が入ってるんだろう? 下世話なあたしは考える。解ってるのは、茜さんが渡してきた小切手で、その靴10足ビスポークしたらお終いだ。
ぷっ、あたしの身体は靴10足分って事かぁ。
3000万なんて、この人達にとっては、端た金なんだよね。あたしの価値より、類のシューズクロークの方が勝ってるって事。とんだお笑い種だ。あたしも随分と安く見られたもんだ。
類の連れの女性が、知り合いに声をかけられたらしく、席を立つ。
3人で残されて、居心地が悪い。
それなのに、それなのに、ヨットハーバーで会った、京極さんの友人と思わしきカップルが、声をかけて来る。
「よぉっ、貴志! あれぇ~君、先週のヨットハーバで会った子じゃん。お前等あの後もしかして、なわけ?」何が可笑しいんだか、ニヤケタ顔して笑ってる。「へぇっー貴志さん珍しいね~」なんてふざけた事を言っている。
類の眉がピクリと動く。 ニヤケ顔のカップルが去って行く。小石の波紋を残して去って行く。大きな大きな溜め息を吐きたい気分だけど、そうもいかない。
あたしは、この場をやり過ごす為に、必死に笑顔を作る。
「マキノさんの着物、とても素敵でいらっしゃる。それもどなたからかのプレゼントですか?」美しい顔の男は、下卑た事を聞いてくる。「俺からです。っていいたいんですけどね~」京極さんが爽やかさ全開で笑う。
「へぇっ~ マキノさんはおモテになられるんですね。」
「えぇぇ。彼女狙い多いんですよ。」
「俺も入れて貰おうかな」唇の意地悪く上がる。
「あははっ、花沢さんご冗談が御上手だなぁー。花沢さんなら選取り見取りじゃないですか」
「京極さんだって、そうじゃないですか?うーん断然、興味が出たな~」
この光景は、何なんだろう? 狸と狐の化かし合い?
チクリ、チクリと心が痛む‥‥
類の連れの女性が戻ってきたのを、合図に京極さんが
「では、まだ挨拶が残っておりますので、失礼致します。」そう類に告げている。
京極さんと共に、挨拶回りをする。前の職場でのお得意様とも話したり、瞬く間に時が過ぎて行く。
「ちょっとお化粧室に行って来ても良いですか?」京極さんにそう言い残し、会場の外に出る。
会場近くの化粧室は混んでいるので、エスカレーターに乗り、上の階に行く。
クラッチバックの中のスマホがぶるぶる震える。何度も何度も震える。スマホには、類の名前で、出ようかどうか悩む‥
刹那‥‥
いきなり腕を掴まれ、「つくし‥」そう声がかかる。
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