白線 41
高級ワインにそれほど親しみがないあたしにでも、わかる芳醇で重厚な美味しさ。
「美味しい」
ラベルを見ると、“ Bonheur ” の文字と百合の花が描かれている。
「幸せ?」
あたしがyasuに聞くと
「うん。幸せ。とっておきのワイン」
くすりと笑って、全部で111本、一年に1本だけワインセラーから送って貰うのだと、教えてくれる。
「Bonheurを開けるのは、今年で28本。特別な年には他にも送ってもらおうと思ってるんだけど‥中々ね」
「そんな特別なワイン‥あたしなんかのために開けていいの?」そう聞けば
「リリスだから、一緒に飲みたくなった」
チャーミングに笑って答えてくれる。
冷蔵庫から出して来た、チョコとチーズをテーブルに置きながら
「そう言えば‥あっち君の名前って?」
名前を言った事なかったね、
そう言ってあたしは、初めて類の名前を告げる。
一瞬、そう一瞬、yasuの顔色が変わった気がした‥。
目を瞑り‥
目元からコメカミに指を這わせたyasuが、
真摯な瞳で、真っ直ぐにあたしを見つめこう言った。
「ねぇ、リリス‥リリスは何があっても私の事を、好きでいてくれる?」
「っん?あたしがyasuの事を嫌いになる何て事はないよ」
そう答えると、少しだけ泣きそうな顔で、くしゃりと笑った。
「リリス‥‥私も昔は、こう呼ばれていたの」
yasuが話し始める。
小さな時から、天賦の才を持っていると言われ続けたピアノ。
周りのみんなが、褒めてくれたピアノ。
いつも兄贔屓の両親も、ピアノのコンクールの時だけは、私に大注目だった。
でもね‥私がピアニストになるのなんか望んではいなかった。
白砂川百合亜 として、然るべき所にお嫁に行く事だけを、あの2人は、望んでいたの。
ずっとずっと好きで続けてきたのに、
箔がつく淑女の嗜みとして、サロンコンサートで弾くのはOKだけど、
職業として、ピアニストになるのはイケナイって。
白砂川家は、内情は決して裕福でなくても、もともと華族の出身だから‥
それこそ降るように縁談があったの。
それに、私美人でしょ?
氏が良くて、美人で、一芸に秀でてる‥バカみたいに需要があるのよ。
だけど、誰も私の中身なんてみようとしなかった。
私は、エヴァには決してなれない女なのにね。
yasuが自嘲気味に笑い、深紅のワインを口にする。
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