白線 55

「うん。確かに、隼人さんはウツケですね」
「ウツケ‥？」
あたしは、微笑みながら言葉を紡ぐ。
あなたの一番の愚かさは、自分が最低だと思っているのにも関わらず、それを正さない事だと。

目の前の、ウツケモノは　『正したら百合亜は、類は、戻ってくれるのか？』あたしに、問うてくる。
「そんな事は、あたしには解りません。あたしは百合亜さんでも、類でもないですから‥」
だけどやって見なければ、動いてみなければ解らない‥とあたしは、言葉を繋げる。

一度口から放たれた言葉が、戻らないように、時間は元には戻らない。
だから、やり直す事は出来ないと。
だけど‥新しい何かを築いて行く事は、可能なんじゃないかと。

「牧野さんは、強いんだね」
隼人さんが、ポツリと言う‥
欲しいものを手に入れるために、あたしは強くなったんだと答える。

「欲しいもの？それが類なの？」
YESだけど、YESじゃない‥あたしは、類の幸せが、笑顔が欲しいのだと答える。
「類が、牧野さんを選ばなかったとしても？」
隼人さんは、意地悪く聞いてくる。
「うーん、考えても見ませんでした‥うーん、そうしたら、どうしましょうかね？」　
あたしは笑いながら、それはそれで構わないかもしれないと答える。

もがくし、あがくし、嫉妬でのたうち回るけど、それで類が幸せならば良いかもしれない。と答える。
「綺麗事ですかね？‥あっ、でも精一杯の努力はしますよ。アンチエイジング血眼でしちゃうかもしれません」
2人で目を合わせて笑う。一頻り笑ったあと‥
「熨斗つけて差し上げますよ‥返却不要ですから‥」
牧野さん、あなたともっと前にきちんとお会いして、話していれば良かったよ。そう言ってくれる。

「あたしが強くなれたのは、辛くて惨めだったけど、この５年間があったお陰だと思ってます」
あたしは、笑う。
「あなたの笑顔は、眩しいなぁー、まるで百合亜が笑ってくれてるようだ」
目を細めながら、隼人さんが言う。

「隼人さん‥」
あたしは、隼人さんの手を取り、花沢の社長室を出る。
「ま、ま、牧野さん？」
「問答無用」
「で、で、でもこの後の仕事が‥」

茜氏が、騒ぎを聞きつけ駆け寄って来る。

「茜さーん、さっきの全部チャラにしますので、この後の予定全てキャンセルしといて下さい」

声をかけ、エレベーターに乗り込む。
何か言いたげな表情をしている隼人さんに、あたしは、意地悪を言う。
「隼人さん、百合亜さんのこと、お好きなんですよね？あたしに、不退転の決意ってのを、見せて頂けませんか？それとも隼人さんの好きって‥すぐ負けちゃうもんですか？」
「それって、さっきの仕返しですかね？」
「えぇ、諸々の‥」
「そうですか‥」

車に乗り込んでも、牧野さんは、意地が悪いだ、やれなんだと五月蝿く言ってくるので
「隼人さんって、類と良く似てますね」
ギョッとした顔をしながら
「それは、どういった意味ですかね？」
「言葉通りです。あっ、でも類のが‥‥かなぁーうふふっ」

類と良く似た、隼人さんは中々可愛い所がある。
ついさっきまで社長然としていた人とは思えない。

yasuは、隼人さんのこんな所に惚れたんだろうなぁーなんて思う。

「あたし、隼人さん好きみたいです。出血大サービスで、ぜーんぶチャラにしちゃいますから。まぁ、頑張って下さい。そうそう、あたしもこれからなんですよ」

これからって？なんて表情をしているので、
まだ類には会ってない事、これから頑張って告白するんだと教えてあげた。

「プワッププッ‥アハハッ‥」
やっぱり‥親子だって思う程に、笑い続けている。
「そんなに可笑しかったですか？」
「あははっ‥いやいや‥牧野さん、お互いに成功するといいですね‥ぷっ」
なんて、言いながらも笑い続けてる。

まぁね、別れて2年一度も会ってないのに、
類はあたしを好きだって決めつけてるんだもんね。そりゃ可笑しいよね。
あたしだって、自分でどうかと思うけど‥
ここまで笑わなくなっていいのに‥
ふんっだ。

「‥牧野さんを、息子の嫁ですって紹介するの楽しみにしてますよ」
真顔で、一言添えてくれる。

ヨシッ！　頑張る



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