はじめてみよう 12
「ねぇあんた、北村専務と付き合ってんの?」
類が、責め立てるように、聞いてくる。
どこをどうしたら、その問いが出てくるのか‥理解しかねて、類の顔を見る。
理解の範疇を超えた質問に
「類に、何か関係ある?」
「はっ?」
「んっ?あたしが誰と一晩一緒にいようが、送ってもらおうが、はたまた誰と付き合ってようが、類に関係あるか?って聞いてるの?」
鳩が豆鉄砲食らう。正しくそんな表情で、あたしを見る類‥
次の瞬間‥
「‥あんたは、いつもそうやって俺を踏みにじる‥」
ソファーから、立ち上がり‥に、に、仁王立ち‥
って、あんたは、 閻魔大王?
ププッ、ビー大王? っん? ゴロよくないなぁー うーん‥‥
「はぁっー‥俺の必死の思いだって、あんたにかかったら、茶化し事?」
あたしを見下ろす類の目に、哀しみが宿っている。
違う‥あたしは、あたしは‥慌てて首を振る。
「匠の事だってそうでしょ?‥あんたは、いつも俺から逃げる。スルリと逃げる。この掌から。あははっ違うか‥一度だってあんたが、俺のものになったことなんてないもんね」
誤摩化しては、いけません。
逃げてはいけません。
だけど‥‥
受け止めてしまったら、終わりしか待ってない。
だから‥
あたしは、臆病になる。
類の美しい瞳が、あたしを見る。真っすぐに真っすぐにあたしを見る。
「‥俺は、あんたしか考えられない‥何度も何度も諦めようとした。でも、俺にはあんたしかいない」
オレニハ アンタシカ イナイ ‥
そう言って、あたしを愛してくれた人をあたしは知っている。
だけど‥‥その恋は、あっけなく散ったんだ。
やっぱり‥‥ごめん。
もうこれ以上、あたしは傷つきたくない。
「ごめん‥あたし、キタさんと付き合ってるの。本気の恋なの‥」
許せ、キタさん‥‥ 許せ、茜さん‥‥
「北村専務と?牧野が?‥20くらい違うよね?それに、あいつバツイチだよね?」
バツイチ? へぇーそうなんだ。
そっかぁ‥茜さん達色々あったっていってたもんね‥‥
「と、と、年は関係無いし‥‥結婚だって‥か、過去の事だし‥」
必死に言い訳をする。
「あいつは、本気なの?あんた遊ばれてるんじゃないの?北村専務って、いろんな女性取っ替え引っ替えだって聞いた事あるけど?」
いやいや‥遊ぶもなにも‥なんもないし‥
それに‥その噂は‥茜さんとののカモフラージュの為に、流し続けていた事だ。
キタさんが、今も昔も愛しているのは茜さんだって、あたしはよく知っている。
「そんな人じゃないから‥真摯に人を愛する人だから‥」
思わず口をついて出た言葉。
「へぇ‥‥随分、惚れ込んでるんだ」
うんうん頷く。そう、そう、そうなのよ‥
「でも、俺‥諦めないよ‥あんなオヤジに、あんたは渡さない‥」
へっ‥ あぁ 今って‥
そうか‥あたしとキタさんって事か。
も、も、もしや‥あたし‥色々面倒にしてる?
いろんな事が渦巻いた‥
ビー玉色の瞳が揺らめいている。静かに静かに燃えている。
素直になると誓った筈なのに‥
あたしは、また、類を傷つけている。
自分が傷つきたくないばかりに‥

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