〜たったひとつのもの〜
さてさて‥‥花沢家の2人を、ちょっと覗いてみましょうか。
「乃恵、考え直すなら、まだ間に合うぞ」
「‥パパ‥」
「類が、そんなんじゃ乃恵が安心してお嫁にいけないでしょ?」
「じゃぁ、行かなきゃいいよ‥ つくしは、貴史でOKなの?」
「貴史くん‥いい子よ。優しいし、乃恵の事大事にしてくれるし」
不服そうに、類が、あぁだ、こうだ文句を言い、つくしが慰める。
もうかれこれ、こんな状態が半年続いている。
その前の半年間は、貴史君の《 お嬢さんを下さい 》を聞きたくなくて‥‥
乃恵ちゃんが、《パパ、今週末空け‥》の段階で、脱兎の如く、その場から消え去っていた。
ママに相談する前に、パパに言わないと‥そう考えていた乃恵ちゃんも、とうとう痺れをきらして、つくしに相談したんだったけね。
つくしに、怒られても何しても4ヶ月粘った。普段入れない長期海外出張に行ってみたりしてね。
そうそう、姑息なこの男‥貴史君をシベリア支社に飛ばそうとまでしたんだ。
乃恵ちゃんが、《 海外勤務は妻帯者じゃないと 》そう類に言い放ったお陰で‥‥事なきを得たけどね。
無事に、貴史君が挨拶に気た時の事‥‥少し話そうか?
その前に、この貴史君、中々優秀な男でね、学生時代に幾つも特許を取っていたり、会社を立ち上げてたりと、立身出世を勝ち得た男なんだよ。
それもこれも‥‥乃恵ちゃんに、強烈に恋したから。
出会いは、英徳で。しかもね、F4が続けて行ってる奨学金学生だ。
かなり優秀。で、この美貌に、この才覚。
F4程じゃないけど、かなりのモテ男だったよ。つくしもベタ褒めの好青年さ。
男親として‥‥こんなそんなも嬉しくないのが人情だ。
事ある毎に、ブツブツ文句を言っては‥‥つくしに冷たい視線を投げつけられてたよ。
当の貴史君は? たまたま参加した企業セミナーでの花沢社長に心酔して‥‥立ち上げた会社は、他人に任せ、花沢に入社したんだよ。
だからなのかなぁー、類には滅法弱いんだ。
何しろ、憧れの人だからね。
なんだけど‥あの日の彼は、違ったよ。
応接室に通されて、先ずはお茶でもの前に、
「お父さん、結婚してください」
って、言い放ったから‥
で、案の定‥
「俺、妻帯者だから無理‥」
類に冷たく言い放たれて、つくしと乃恵ちゃんに大笑いされてたよ。
まぁ、それでもめげない所が彼の人の良さだよね。
「乃恵さんと結婚させて下さい」
すかさず言い直してたよ。答えは、勿論
「やだ‥」
だったけどね。
つくしが、類をひと睨みすると
「大事な娘のプロポーズを、カレー屋でする男なんかに、渡せないね」
フンッって感じに言い返してた。
ククッ、その一言が決め手になって、この後の貴史君の応酬で、目出たく嫁ぐ事になったんだよ。
「乃恵さんから‥乃恵さんがお腹に宿った初めての結婚記念日に、花沢社長が奥様をアイキャに連れて行かれたと聞いて、是非そこでと思ったんです」
この言葉には、流石の類も二の句が継げなかった。
「カレー屋って、アイキャなんだ‥」
アイキャは、カレー屋と言っても、ただのカレー屋じゃないんだ。完全予約制で一日一組しかお客を取らないんだよ。
しかも、毎日取るわけじゃない。幾らお金を積んだってとれるもんでもない。
アイキャにつくしを連れて言った、類が一番良く知ってる。
まぁ、初めての結婚記念日に、カレー屋?って、
アイキャにつくまで、密かにつくしがガックリ来てたのは内緒だけどね。
「良くとれたね」
「たった一つの欲しいものですから‥‥」
この言葉で、実質OKになったんだよね。
だけど、それはそれ、これはこれ‥
その日から、暇さえ有れば、
「乃恵、早まることはないよ」
「パパが一番、乃恵の事は愛してると思うよ」
「ちょっとでも嫌な事があったら、すぐに辞めたらいいからね」
もう、毎日毎日‥
だけど、それも今日でお終い。
乃恵は今日‥‥嫁ぐ。類とつくしの結婚記念日に。
愛する貴史君のもとにね。
類は、つくしは思い出す。
愛する娘の心音を始めて聞いた日。
産声を聞いた日。
パパ、ママ、そう呼ばれた日。
様々な出来事を‥
「そう言えば‥乃恵が、俺達の結婚記念日に時期外れの梅の花の絵をプレゼントしてくれたよね?」
「えぇ、二人でなんで梅って?が浮かんだよね」
二人でクスリと笑う。
全てが楽しい思い出として蘇る。
全てが美しい一こまとして蘇る。
26回目の結婚記念日の思い出は、
人生、最良の日として、心に刻まれる。
愛おしい乃恵‥幸せになるんだよ
そっと類が呟いた。
つくしが、類の手を包み込む。
二人の目に、キラリと涙が光る。
アイキャ=たったひとつのもの
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