被虐の花 22 あきつく
目の前の男が、金は出すから俺の秘書になれと言っている。
「司お前、酔っぱらってるのか?ったく、言っていい冗談と悪い冗談があるぞ。なぁ‥あきら」
「牧野が、俺の秘書になるんなら、俺も1億くらい出しちゃうなぁー ねっ牧野」
類が、優しくあたしに微笑みかけている
トンッ
グラスが、勢いよくテーブルに置かれる
「冗談じゃねぇよ‥なぁ、あきら?」
「司、もう酔っぱらったのか?」
「酔っちゃいねぇーよ。
牧野の親が拵えた借金の代わりに、牧野を囲ってんだろ?
だから、言ってんだよ。
たかだか1億ぐれぇの金で股開く女なんて、所詮愛人止まりだろうよ?だったら俺に譲れよ」
たかだか1億と、目の前の男は事も無げに言う。
この男の存在は、いつもあたしを貶めていく。
「ククッ、新手の秘書の引き抜きって奴か?
司、悪いけど‥優秀な秘書は、そんな簡単に渡せないよ」
「ケッ‥あくまでもシラを切るって事か?
まぁっ、それならそれでも構わないけどな」
カチャッ
男が、煙草の火を点け煙が燻ってくる。
「別に焦っちゃいねぇしな」
冷えた瞳であたしを見つめながら、
煙草を灰皿に押し付けて席を立つ。
「あきらの秘書なら、これから会う機会も増えるしな。
まぁそんなに睨むなよ」
あたしの肩に、男の、ううん‥道明寺の手が触れた。
「じゃあな」
司の指先がつくしの肩に、一瞬触れる。
まるで愛おしくて堪らないというように、優しく触れた。
そうか‥‥やっぱり司は、未だにつくしを愛してるのか。
いくらお袋さんの策略だったとしても、自分を見捨てた女を許せない。
いいや、違うか‥
自分を見捨てた女だろうが、
なんだろうが、
未だにつくしを狂おしい程に愛しているのだろう。
つくしは、男を狂わせる。
白い肌が、漆黒の瞳が‥
男を捉えて離さない。
コンコンッとドアを叩く音がして、滋と桜子が入ってくる。
「あれー、ニッシーも類君も早いねぇー」
「お前等2人が遅いんじゃねぇの?」
「えっ、11時に変更だって、司の秘書から電話があったよ。
これでも約束の時間より早く着いたんだよー。ってか、司は?」
「用が出来たとかで、先に帰った」
「えっーーー」
喧噪の中つくしに、そっと囁く
「大丈夫だ。お前の身体は管理されてるから」
コクンとつくしが頷き、震えが止まっていく。
「つくしー」
「牧野先輩」
桜子と滋が、俺を押しのけて、つくしの両隣に陣取る。
俺は、総二郎と類の座っている席に移動した。
類が、チョコを一欠片指先で摘まみ上げ
「ねぇ、司の言ってた1億ってどういう事か説明してよ?」
軽い口ぶりだが‥
言い逃れは出来そうにないと感じさせる真っ直ぐな視線を、俺にぶつけてくる。
「お前等2人の事、俺も聞いてみたいと思ってた」
「悪い…‥もう少しだけ待ってて貰ってもいいかな?」
「じゃぁ、何かがあったって事は事実なんだね?」
類の眼差しが、鋭く光った。
「‥あぁ‥」
俺の頭の中に、クマゼミの鳴き声が聞こえてくる。
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