被虐の花 26 あきつく
婆様は、眠るつくしの髪を撫でながら
「いい子、いい子、つくしちゃんはいい子」
優しい調べで口ずさんでいる。
2人につくしを託して、俺は総二郎に連絡を入れる。
「‥‥あぁ、突然で申し訳ない‥あぁ、お願いするよ」
Bar crimeに向かう。
奥の部屋に通される。
ほどなくして、総二郎と類‥そして司がやってくる。
「突然呼び出して、悪かったな‥」
「そんな事はどうでもいい。牧野どうしたの?」
類が口火を切った。
「発作を起こして入院中だ」
「発作ってなんだよ…」
「牧野に、つくしに出会ったのは偶然だったんだ‥」
俺は、話し始める。あの夏の日の出来事を。
シャーシャーとクマゼミが今が盛りと鳴いていた日の事を。
「つくしは、善も悪も引きつけるんだ‥
惹き付けられた人間は、彼女を欲してしまうんだ。狂おしい程にね」
迫田の事を話した。
俺が目を離した隙に、つくしが消えてしまったことも。
「牧野の意思で消えたって言うの?」
「あぁ、状況的にみて、それしか考えられないからね」
「やっぱり、あの女は誰にでも股を開く女なんだな」
「司っ」
殴り掛かりそうになる類を止め
「司がそう思うのなら、そう思っても構わないよ。
だけどつくしは、俺に抱かれるまで真っ新のままだったよ」
司は何も言葉を発しず、押し黙る。
つくしが消えた空白の1週間の事を話した。
「じゃぁ、その間の記憶が欠如してるって事か?」
「あぁ」
「それは、思い出させなきゃいけないの?」
「そこを、きちんと思い出させなきゃ前に進めないと思ってるよ」
俺は、頭を下げる
「アイツがそれを思い出して己と向かい合う時、
お願いだからそっとしてやって欲しいんだ」
カランッ グラスの氷が溶ける音がする。
「ねぇ、牧野とあきらって、どういう関係なの?」
類が聞いてくる。
「‥契約関係だよ」
「それって、どういう事?」
「美作の秘書で、俺の愛人だよ」
「愛人って、どういう事?」
俺はつくしが、幸せを恐れている事を話して聞かせる。
司が、両手で頭を抱えて低く呟いた
「俺のせいか?」
俺は首を振る。
「不幸な事が重なって起きただけだ。
誰のせいでもないように、
決してつくしのせいじゃないんだ」
「アイツは全て自分が悪いと思ってる。
俺が爺様の仕事を継ぐ事ですら、自分の責任だと思ってるんだよ」
「それで契約かよ?」
「あぁ、主従関係の中でなら、つくしは安心していられるんだ。
それに‥いつ自分を傷つけるか解らなかったからね」
俺は、もう一度頭を下げて懇願する。
「アイツが、昔のように笑えるようになるまでいいんだ。
もう一度笑える日が来たら、必ずお前等のもとに連れてくるから」
カランッ
琥珀色の液体を一気に煽る。
帰り道、暗闇に月が浮かんでた。
まぁるいまぁるい月が浮かんでた。
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