七夕の夜に 総つく
それは、それは幸せそうに‥眺めている。
「なぁ、櫂‥」
父様が、嬉しそうに話す。
僕が生まれる前の七夕様の事を‥
***
ヨシッ、いい天気だ‥
天気予報も晴れだった。夜まで天気も持つだろう。
今日こそ、今日こそ‥
「若宗匠、本日も宜しくお願い致します」
七夕にちなんだ梶の葉が、描かれた着物を着ている。
最初の頃は、着物一つ満足に着れなかったのに‥
美しく着るようになったなぁーと目を細める。
「‥若宗匠、何をご覧ですか?‥って、また粗捜し?」
ちょっぴり唇を尖らせて、つくしが笑う。
コイツが、俺の半東を勤めるようになって、
彼此れ2年の月日が経つ。
いつの間にか茶事には、欠かせない存在になっている。
それは、俺だけが感じる事じゃないらしく‥
この頃は、家元夫人が催す茶事の半東さんも勤めている。
「粗探しじゃねぇよ。梶の葉の着物が似合うなぁーと思ってな」
「ひゃっ、珍しい‥西門さんが褒めるなんて‥」
「おっ、お前ペナルティーな」
「あっ‥今のは無しって事で‥」
「ダメに決まってんだろうよ」
「だって、西門さんは西門さんだし‥」
「西門は、この邸にはいっぱいいるだろうよ?」
「ぐっ」
つくしがお袋の半東さんを勤めるようになった頃‥
俺の名を呼ぶ時は、若宗匠か、名前で呼ぶと決めたんだ。
西門さんじゃ、わからねぇからな。
で‥西門さんに慣れきったつくしは、当然〝総〟とは呼べない。
ナイスアシストお袋で‥ペナルティなるものが出来上がった。
10回呼び間違えたら、お袋か俺の言う事を1つなんでも聞くだ。
総と呼べないつくしは、若宗匠を連呼する‥
まぁ、これもお袋ルールで、
プライベートルームで若宗匠と呼べば、
ペナルティーを課せられる仕組みに変わった。
今日着ている梶の葉の着物も、ペナルティーで新調したもんだ。
あん時は、用も無い筈なのに、いちいち俺に用事を作って、
つくしに呼び出しさせてたっけかな。
「でもさぁ、‥そ、そ、総も、おば様もペナルティーって言いつつ、ペナルティーじゃないよね?」
「あんっ?そうか?じゃぁちゃんとしたの考えとくわ」
「ゲッ‥墓穴掘った感じ?」
「あぁ、そうだな。100回記念だしな」
茶事の前の何気ない会話で、俺の気持ちがほぐれていく。
気持ちがほぐれた所で‥
スーッ と黙する。 凛とした空気が流れていく。
程よい緊張感が、身を包んでいく。
「今日も、宜しくな」
「はい」
七夕の朝茶事が始まる。
挨拶の後に、短冊に願いごとを書いて頂く。
俺の願いも、笹に吊るす。
流れるように時が過ぎていく。
「なぁ、お前も願い事書いとけよ」
「あっ、うん‥」
***
「父様、父様」
「あぁ、ワリィ‥」
「母様は、なんて願い事を書かれたの?」
「ホレッ」
息子の僕が見ても艶っぽい笑顔で、父様が短冊を見せてくれる。
〝 来年も七夕茶事の用意ができますように 〟
「父様は、なんて書いたの?」
「あははっ ホレッ」
〝 幾年の時を重ねて 思い出を2人で語る七夕の夜 〟
母様と父様の思いが伝わって来る。
「この後は、どうされたの?」
「それはな‥」
父様が、再び語り始める
***
「つくし‥」
「なに?」
「さっきのペナルティーな、決まったぞ」
「えっ‥なに?」
「これを‥毎年実行してもらう」
「っん? あっ‥」
つくしの頬が、赤く染まる。
って、良いんだよな? 俺の都合のよい解釈で‥
「ペナルティーは絶対だからな」
***
「てなワケだ」
「父様‥‥」
「なんだ?」
「芸は身を助く‥ですね」
「だな‥」
父様と2人で笑い合う。
「にぃにぃー ととさまー」
「櫂、総 」
母様と、すぅちゃんが天の川が指しながら、僕と父様を呼ぶ。
4人で並んで、空を見る。
幾年も2人で年を重ねたいと思う相手と結ばれようと、
七夕の夜に僕は誓った。
僕の真摯な思いを打ち破るように‥
「にぃにぃー、すぅちゃんね、うさちゃんセットをたのんだよ。にぃにぃは?」
すぅちゃん‥七夕様はサンタさんじゃないよ
僕は、言葉を呑み込んで
「うさちゃんセットくるといいね」
そう微笑んだ。
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