月夜の人魚姫 02 総つく
「クゥッ~美味い」
至福の時間が訪れる。
パチンッ
缶ビール片手にテレビのスイッチを入れ、床にペタンと座り込む。
近くにあった女性誌を何となく覗けば‥
〝平成のドンファンまたまた熱愛発覚〟
〝華麗なる女性遍歴〟
懐かしい男性の顔を発見して、唐突に昔の事を思い出す。
「っふぅ~」
カキコキと音を立てながら、首を回しては、ビールをぐびぐびと呷る
クゥッ~ クゥ~
缶ビールを手にしたまま、いつの間に寝入ってしまった。
「ミュウ‥」
コトンッ
誰かがあたしの名を呼びながら、手に抱えたままの缶ビールをテーブルに置いている。
あなたは、誰‥?
てっ、遊しかいないか‥
「っん‥‥遊‥早かったね」
「あぁ‥お前、そんな所に寝たら風邪引くぞ、ベッドで寝ろよ」
「うーん‥‥クッシュン‥寒っ」
ブルブル震えるあたしに、ソファーの上のブランケットを手渡してくれる。
「ほらっ、言わんこっちゃない‥ったく」
「ごめん‥DVD見てたらまた寝ちゃったみたい」
「あれ、鬼門だな」
「うん。そうみたい‥中々最後まで辿り着かない‥遊、今度付き合ってよ」
あたしは、何故か媚びた笑いを遊に向けている。
遊が、あたしを見つめながら
「目、覚めた?」
「あっ‥うん」
「じゃぁ、付き合ってよ」
唇と唇が重なって、舌が絡めとられる。
どこか冷静なあたしは、遊はキスが上手いな‥
そんな事を思いながら、キスを受け取っている。
お互いにお互いを貪り合う。
一定のリズムを刻んだあとに、遊の身体がのしかかって来る。
「ふぅっー やっぱ、ミュウの身体最高だな」
「あははっ、誰と比べてよ」
共犯者の笑いを、2人で浮かべた後に‥あたし達の関係を考える。
‥‥セックスはある。
でも‥‥そこには愛はない。
だけど
遊は、あたしの隙間を埋めてくれて、あたしは遊の隙間を埋める。
あたしの渇いた心を、身体を、埋めてくれる。
「どうした?」
「あっ、ううん‥どうもしないよ」
「遊、お肉が食べたい…」
「この前オープンした所でいいか?」
「うん」
遊は、あたしの勤める会社の若きオーナー社長だ。
本人曰く、成り上がり社長らしい。
一ノ瀬新蔵の孫だから、成り上がりには見られはしないけど。
彼は、家を捨てた父親と、一般家庭で育った母親から生まれた。
父親が亡くなって身体の弱い母親と、二人で助け合い生きてきた。
貧乏だったけど、幸せな日々だったと遊は言う。
母親の手術費用を出して貰うために遊は、一ノ瀬家に入った。
針の筵のような生活だったと彼は言う。
「爺は、自分の自由になる駒が欲しくて俺を引き取り、周りは優秀な俺をやっかんだ」
「遊、優秀なんだ」
「あぁ、経営者としてどうやら俺は優秀らしいよ」
「ふーん」
そんな会話を交わした後に、遊はあたしを抱いた。
心の寂しいところが、共鳴しあったのだろう…
抱いたあと、遊はあたしに名前をつけてくれた
ミュウ‥それが今のあたしの名前だ。
あれから8年‥あたしはミュウとして生きている。
「ミュウ、どうした?」
遊が、あたしの顔を覗き込んでいる。
色々な思いを消し去るように
「っん、どうもしないよ‥ ってか、もう一回しようか?」
遊の胸に顔を埋めた。
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