シーソーゲーム 16

「つくし様」
そう声をかけられ、目を覚ます。
４０分程、車を走らせてくれたのだろう、頭がスッキリしている。
今なら、柊兄ぃと戦える気がする。
って、戦う？　戦う理由ないよね？
うーーん

「百面相になってるぞ」
いつの間にやら、出迎えにきたのだろうか
柊兄ぃがクスリと笑って立っている。

静ちゃんが後ろからやってきて
「つくしちゃーーん」
嬉しそうに、抱きついてくる。
ふわりっと、フローラルのいい香りがする。

「いい香り‥」
「あら、いつもと同じよ」
ニッコリと笑う。
綺麗だなぁー静ちゃん‥あたしは、静ちゃんに見惚れる。

一之宮の屋敷のものが、口々に
「つくし様、お帰りなさいませ」
そう言って出迎えてくれる。

執事の室井さんと、柊兄ぃの婆やのエッちゃんが来る。
エッちゃんは、うちの婆やとも仲良しだ。

２人とも嬉しそうに
「新しい生活にはお慣れになられましたか？」
「ご不自由はございませんか？」
幾つかの質問を投げかけてくる。

「はい、楽しく暮らしております」
そう答えるあたしの後ろで、

「つくしは、如月の家に居る時よりも楽しそうにやっているみたいだよ」
柊兄ぃが意地悪く言葉を放つ。

「そう、妬けちゃうくらいよ。私も柊さんも知らない人なのよーーもう嫌になっちゃうわよねぇ」
ちょっと不満げな表情で、静ちゃんが話す。

「‥ゴメンね‥‥」


「まぁ、如月の家の決まりだから仕様がないわよね、それはそうとつくしちゃんって、F４の皆と面識なかったのね。如月の情報操作には改めて驚かされたわ」

そう、あたしも、進も、極力‥如月本家の人間だと解らないように生きてきている。
白鳳には、如月つくしとして通っていたが、
それでさえ、如月本家の人間だと知っているのは、極々限られた一部の人間だ。


進に至っては、もっと強く箝口令がひかれている。

一之宮家と、藤堂家は特別だ。　
藤堂は、お母様の実家。
一之宮は、ううん。一之宮柊は、お爺様の言葉通り‥暫定的な婚約者。
小さな頃から一緒に育ってきた。


如月の人間としては、一之宮とくっついて貰えれば一番なのだろう。
だけど‥政略結婚に苦しめられた過去を持つ、高祖父の教えで、自由恋愛のチャンスが与えられているのだ。

今までに、婚約者以外の者と結婚したのは‥ゆみ叔母ちゃまだけだ。

あとは皆、小ちゃな頃からの婚約者が恋愛相手になって上手くいっている。
多分‥あたしの事も、このまま柊兄ぃと結婚するんだと、思っているだろう



あたしだって‥‥柊兄ぃは、大好きだ。
でも‥‥
それは、ラブの好きじゃない、ライクの好きだ。
静ちゃんを好きな気持ちと一緒だと思う。

柊兄ぃもそうだよね？

柊兄ぃを盗み見る。
意思の強そうな、綺麗な横顔が目に入る。

「だけど、すっかり仲良しになってるよね。あのさぁ、つくしは俺の事どう思ってるの？」

えっ？どうって‥‥
答えられなくて、助けを求めて静ちゃんを見る。
「うんうん。それそれ、私も気になってたのよねぇー」
し、し、静ちゃーーーん

チョコを一つ摘みながら
「つくしちゃんは、柊の事、好きなの？嫌いなの？」

「嫌いじゃないよ‥」

「じゃぁ、好きなんだよね？」

「‥‥‥‥」

「都合が悪いとだんまり？」
柊兄ぃが、薄く笑う

「別に慌てないけどね‥‥それよりも、静の方こそ、例の彼とはどうなってるのさ？」

「うふっ、秋には、婚約になると思うわ」
幸福そうな美しい顔で静ちゃんが笑う。

例の彼？　婚約？　

ソレハ　ダレトデスカ？








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