シーソーゲーム 21
時折、非常階段で一緒になって、トトやポペの話をする。
毎週水曜日のバイト帰りには、
和菓子をもって、花沢邸にお邪魔する。
トトと佳代さんが出迎えてくれる。
主の花沢類は、寝てたり起きてたり様々だ。
楡の木が、葉を落とし始めている。
「ポペはどんなコだったの?」
「花沢類みたいに、いっぱい寝るコ」
「ぷっ、俺って言うよりも、牧野のことじゃん」
「うふふっ、そうかも。ポペとはね、いつもいっしょだったの。
お昼寝するのも、冒険するのも、小さな頃からずっとずーーっと、一緒だったの」
「冒険?」
「うん。冒険」
ポペの話をこんなにいっぱいしたのは、ポペとバイバイしてから初めてで。
小ちゃなあたしが、ポペと2人で居た幸せを、花沢類は、もう一度運んできてくれた。
ポペの話をすると、いつも最後に、あたしは泣いちゃうのに‥
花沢類は、ポペの話を自然に聞いてくれるんだ。
ポペと一緒のビー玉色の瞳で。
「ポペと暮らせて幸せだったんだね」
「‥うん‥幸せだった」
「出会えて良かったね」
出会えて良かったね。
この言葉を聞いたとき、そうか、あたし、誰かに言って欲しかったんだ。
ポペと居て幸せだったんだね。出会えて良かったね。って。
ポペとバイバイしたあたしに、ポペの話をする人は皆無だった。
時折、ポペを思い出して泣くあたしの傍に、そっと寄り添ってはくれたけど‥
柊兄ぃも、静ちゃんも、千恵子も婆やも進さえも、
ポペを思い出して泣きじゃくるあたしを可哀想だと思ったから。
ポペの話は、あたしがしない限り、如月ではタブーだった。
「うん。出会えて良かった」
花沢類‥ あたしは、あんたにも出会えて良かった。
心の底から、あたしは笑う。
あたしの心は、幸せになる。胸の中が、温かさで満ちてくる。
キラキラ キラリ
キラリ キラキラ
幸せで心が満ちてくる。
花沢からの帰り道は、トトのお散歩だと言って、花沢類が送ってくれる。
曲がり角のところで、「またね」と別れる。
トトと、花沢類が、アパートの階段を登るところまで、黙ってみててくれる。
2人に、大きく手を振って、あたしは家に入るんだ。
でも、それは今日でお終い。
あたしは、あの日決めた決心を、実行する事にしたんだ。
明後日‥佐助さんに会いに行く。
静ちゃんと、婚約を解消して下さいって頼む為に。
それが、どんなに思い上がったことだったなんて、
子供だったあたしは、考えることも出来なかった。
だけど、この時のあたしは、目の前の事しか見えない子供だった。
放漫で、自分勝手な子供だったんだ。
愛はエゴ‥ そんな言葉で言い表せない程に‥
あたしは、エゴの塊だったんだ。
↓ランキングのご協力よろしくお願い致します♥


♥ありがとうございます。とっても嬉しいです♥
- 関連記事
-
- シーソーゲーム 24
- シーソーゲーム 23
- シーソーゲーム 22
- シーソーゲーム 21
- シーソーゲーム 20
- シーソーゲーム 19
- シーソーゲーム 18