シーソーゲーム 34

柊兄ぃの唇が、あたしの全身を生き物のように這っている。
動きが止まる‥

「なんで‥なんでなんだ‥」

太腿の付け根に付いた無数の紅い花びらを、見下ろしている。

打ぶたれる、そう思ったのに‥

柊兄ぃは、あたしの上に跨がって見下ろしたまま
「つくしは、いつもそうだ。自分だけが傷ついた顔をする‥‥」

柊兄ぃの目に狂気が宿り
「つくしが他の男を好きでも構わない。お前は俺のものだ」

バタンッ
あたしは、一人取り残される。

ヒック‥ヒック‥ヒッ‥ック‥
あたしが悪いのだから泣かない‥
そう決めたのに、後から後から涙が溢れてく。

ッスン‥ッスン‥ゥゥゥウゥン‥ヒック‥

泣いても泣いても、涙が後から後から溢れて行く
どれくらいそうしていたのだろう。
服を着て涙を拭く。
部屋を出ようとドアを開けようとした時、
ドアの外から、柊兄ぃが秘書の堀内さんに命を出す声が聞こえてきた。

「つくしの昨日の行動を、きちんと調べ直して。
ホテルの中の監視カメラから洗いざらい。歩容認証使えば特定出来るだろう？」

「柊様‥つくし様は、昨日はホテル内にいらっしゃったのでは？」

「五月蝿い‥言われた事だけすればいいんだ」

「も、申し訳ございません‥」

堀内さんが、慌てて部屋を出て行く音がする。
扉の隙間から、柊兄ぃが、頭を抱え踞っている姿が見える。

一緒に居たのが、あたしを抱いたのが、
類だって解ったら‥どうなるんだろう？

類を、花沢を巻き込んでしまったらどうしようと‥
とてつもなく大きな後悔が押し寄せてきて、身体がガタガタと震えだした。

柊兄ぃが立ち上がり、あたしの居る部屋に来るのが見える。
あたしは、呼吸を整えるために、大きく息をした。

「つくし」
柊兄ぃが、あたしの名を呼び後ろから抱きしめる。

「つくし‥‥つくし‥‥つくし‥
俺は、俺は、ずっとつくしだけを見て来たんだ。
だから‥諦めないよ。つくし、お前を奪おうとするものは、全力を上げて潰すよ」

柊兄ぃが、あたしを強く、強く、抱きしめてくる。

「安心して、他の男の印がついてる女を抱く程、女に飢えてないよ」

耳朶を舐ねぶりながら、囁く。

「だけど、もう二度と勝手は許さないから」

髪の毛を弄びながら、釘を刺される。

「もう自由は無いと思ってね。良いね？解ったね？　つくし、返事は？」

あたしがコクンと頷くと

手を出しながら
「スマホと、お財布、取りあえず全部出して」
柊兄ぃが、鞄の中身を取り出した瞬間
ひらりっ　類から取り戻した写真が、落ちる。

「ポペとつくしか、懐かしいね」
この場に似つかわしくないくらい優しく微笑む。


ズキンッ
優しく微笑まれて、初めてあたしは理解した。
あたしは、柊兄ぃを裏切り、傷つけてしまった事を。


「‥ごめんなさい‥」

謝るあたしに、柊兄ぃは声を荒げて言い放つ。


「謝るな‥謝る様な事は、何一つ無かったんだ」




柊兄ぃは、あたしを愛している。






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