シーソーゲーム 40 類つく
涙が一筋流れてた。
「くぅちゃん‥?」
ゆみ叔母ちゃまは、何も聞かず優しくあたしの身体を包み込んでくれていた。
ヒック‥ヒック‥スンッ‥ウウッウウッ‥
堪えていた涙が溢れだす。
毎晩繰り返される儀式が嫌‥
あたしの上を這いずり回る、唇が舌が嫌。
あたしの髪を優しく撫でる指先が、ことある毎に落とされる口づけが嫌。
「つくし」優しく呼ばれ、愛を囁かれるのが嫌。
自分の奥底に眠る感情に、あたしは気が付いてしまった。
コトンッ
あたしの目の前に、ホットワインが置かれる。
こくりっ 喉を潤した瞬間、あたしの中を、あの嵐の一晩が蘇ってくる。
「夏‥みか‥ん?」
「あらっ、良くわかったわね。ゆみオリジナルよ」
夏みかんのピールと、様々なスパイス達が、大人の香りを引き立てている。
類の指先を、口づけを、あたしの身体は忘れない。
身体の奥底から、類を好きな気持ちで溢れだし、自然に笑みが溢れ出していく。
「あら、くぅちゃん夏みかんに何か良い思い出でもあるの?」
「えっ」
気恥ずかしくて、プルプルと首を振る。
「うふふっ、そう?とっても良い笑顔が溢れてたけど?」
「な、な、夏みかんが好きなの」
「うふっ、私にはあるわよ。夏みかんの思い出が」
ゆみ叔母ちゃまは、何かを思い出したように、笑みをこぼしている。
あまりにも幸せそうで、綺麗で、見ているあたしまで幸せになる笑顔だった。
「‥ゆみ叔母ちゃま‥綺麗‥」
「あらっ、いやだぁー、そんな本当の事を」
バッシンッ
肩を叩いて、コロコロと鈴の音のように笑い出す。
「やっぱり、女の子は良いわよねぇー。ハルじゃこんな事ちっとも言ってくれないもの」
来訪者を告げるベルが鳴り響く。
「あらっ、噂をすればハル達かしら?」
ハルちゃんが、部屋に入って来て
「おぉー ナップ!元気だったか」
「あっ、またナップって呼ぶ‥」
ハルちゃんの後ろに居た美しい人がニコッと笑いながら
「ナップちゃんのお噂は予々‥」
「えっ、ハルちゃんの噂って‥あちゃぁー」
目を見合わせて2人で笑う。
「つくし‥如月つくしです」
「私は結城梨乃です。よろしく」
梨乃さんは、ハルちゃんの恋人で‥
年明け早々に、婚約という形をとるんだと紹介された
2人の何気ないやりとりを見て、とても幸せな気分になりながら、
反面羨ましいと言う感情に支配される。
「じゃぁ、12月にはそのまま柊さんと婚約発表だ」
「うわっ、じゃあ一番幸せな時期ですよね~」
ハルちゃんと、梨乃さんに言われて‥答えに詰まってしまった。
「あっ、あたし‥柊兄ぃに電話しなきゃいけなかったんだった。ゴメンね‥」
慌てて席を立つ。
時計の針はまだ10時。
RRR‥
「つくし‥今日は、どうしたの?まだ早いよ」
まだ早いって? あたしの心の中に澱がたまっていく。
「‥今日は、人のお家だから‥」
「ゴメン‥そうだったよね‥ゆみさんと、ハル君は元気にしてる?」
「あっ、うん。ハルちゃんの恋人も来てるんだよ」
「へぇ、それはそれは。そっかぁ‥俺もお会いしたいな」
梨乃さんの話を出した途端、昨日の会話が嘘のように、柊兄ぃの機嫌がよくなる。
機嫌の良さに釣られて、あたしは‥
「あの…」
「っん、なに?」
「もしもなんだけど…あたしが、働きたいって言ったらどうする?」
「つくしが働くの?」
「…うん‥」
電話の向こうで、柊兄ぃが何が可笑しいのか笑っている。
「つくし‥ゆみさんに何を感化されたのか知らないけど‥
君の誕生日には、俺等は婚約するんだよ?
婚約が整えば、婚儀も待ってるって解ってるよね?」
「‥結婚は、まだ先だって‥」
「もう既に一緒に暮らしてるんだ。きちんとしないと如月のお爺様にも申し訳ないよ」
「でも‥」
「つくし、でもはないよ。君は来年の今頃には一之宮つくしだよ」
声音は優しいのに、死刑宣告のような声がした。
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