シーソーゲーム 42
「じゃぁ、私は先にお休みするわね。皆さんゆっくりね」
そう言いながら、部屋を去って行く。
漆黒の人が、あたしを見て微笑んでいる。
刹那‥瞳が絡み合う。
これは、幻?
「吉野君は、メルヘン君って呼ばれてるのよ」
真理さんが話しだす。
「メルヘン‥君?」
ハルちゃんが笑いながら
「夏みかん姫に、恋してるから」
漆黒の人が
「厳密に言うと、彼女は姫じゃなくて、妖精だよ」
「姫も妖精も一緒じゃねぇの?」
「いいや違う」
漆黒の瞳があたしを見つめながら、夏みかんのリキュールを手渡してくる。
絶妙な甘味と酸味のバランスに、あたしはグイっと飲み干していた。
顔が火照る‥カウチに腰掛けてどこか他人事のように眺めてた。
いつの間にか、3人の飲み比べが始まって、ハルちゃんと真理さんが酔い潰れた。
「少し夜風にあたらない?」
懐かしい声が、あたしに囁いた。
火照った頬に夜風が心地よく通り過ぎて行く。
漆黒の髪と瞳を、月の明かりが照らし出している。
「‥つくし‥」
名前を呼ばれた瞬間‥口づけが降って来る。
貪るようにあたしは、彼を求め、彼はあたしを求める。
諦めた筈なのに、思い切った筈なのに‥
あたしの心は、思いは、溢れ出していく。
ベッドの中で、愛を確かめ合う。
類の甘く蕩ける口づけで、あたしの身体は埋められていく。
類の口づけが肩甲骨の所で、一瞬止まった。
次の瞬間、強く口づけされる‥‥
「‥類‥お願い‥跡はつけないで‥」
あたしは、懇願する。
「何故?」
険しい声が、返される。
「‥‥会えなく‥なっちゃ‥う‥から‥」
その言葉で全てを悟ったのだろう‥
類の動き全てが止まる。
「つくし‥」
次の瞬間‥‥
あたしの名を呼びながら、類があたしを抱きしめる。
激しく‥優しく‥抱きしめる。
つくし‥愛しいあなたが、あたしの名を何度も何度も呼ぶ‥
愛する人から発せられる名は、極上の幸せを与えてくれる。
「類‥ごめんね‥ごめんね‥」
ズルイあたしは、涙を流す。
この男を失いたくないと強く願って、涙を流す。
「謝らなくていい‥だからお願い‥俺の前からもう消えないで」
類の胸に顔を埋める。類の香りに包まれてあたしは幸せを噛み締める。
あたしの全身に類の口づけが、降り注がれる。甘美な思いが身体を突き抜けていく。
ビクンビクンとあたしの身体は、跳ね上がる。
指と指を絡め合わせ、見つめ合い微笑み合う。
愛する男との肌の触れ合いは、犯している罪を忘却の彼方に追いやる。
愛される喜びと、愛する喜びが一つに合わさって、2人で高みに昇りつめていく。
類の胸に、幸せに抱かれてあたしは眠る。
夢も見ずに深く深く眠る。
だけど‥‥
幸せは、時に誰かを不幸に陥れている。
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