被虐の花 30 あきつく
主治医の先生の声がする。
意識が現実世界に立ち戻る。
「決してあなたのせいではないのよ」
先生の優しい声が眼差しが、あたしを受け入れてくれる。
記憶を取り戻す治療が始まって‥ふた月が経っていた。
あたしは、失われていた記憶を少しずつ自分のものにした。
屈辱的な思いをしながら、幾度も涙を流した。
その度に
「怒れ、もっと怒っていいんだ。感情を解き放つんだ」
あきらさんは、そう言ってあたしを大事な宝物でも扱うように、包み込んでくれた。
「あたしは汚い‥汚れてる‥あきらさんにふさわしくない」
そう言えば、優しく微笑んで
「俺の昔の渾名は、マダムキラーだ」
そう言いながら、口づけをしてくれる。
全てを丸ごと受け止めてくれる。
彼に見守られ、あたしはあたしを受け止めて行く。
**
「イヤ‥イヤ‥イヤァーーーー」
「つ‥し‥つく‥つくし‥」
目を開ければ、あきらさんがいて、全て過去の事だと理解する。
ガタガタ震えるあたしの手を握りしめ、落ち着かせてくれる。
トントントンッと、リズムを取りながら、布団をかけて眠りにつかせてくれる。
あたしは、彼に身を任せて眠りにつく。
全ての記憶を取り戻してから、半年経った頃。
アタシハ、ワルクナイ‥そう思える程に、あたしは心を回復させる事が出来るようになった。
そこから3ヶ月、穏やかな眠りが訪れるようになった。
「今回のカウンセリングで、もうお終いね。あとは、ひと月に一度お喋りにきてね」
先生の一言で、治療が終わりを告げた。
その晩‥あきらさんは、あたしを素敵なレストランに連れて行ってくれた。
お食事も、会話も楽しくて、全てがキラキラと輝いて見えた。
「つくし‥よく頑張ったね」
「ありがとう。あきらさんのお陰だよ」
ニッコリとあきらさんが微笑む。
その晩、久しぶりにあたしは、あきらさんと一つになった。
身も心も蕩ける程の幸せがあたしを包みこんだ。
それから半年‥‥
あきらさんが来ない日も落ち着いて眠れるようになった。
一人で行動する事が怖くなくなった。
調理器具を置き、手料理を作るようになった。
「牧野、昔みたいに良い笑顔で笑うよになったね」
類に言われたのは、丁度その頃だった。
あたしは勇気をだして‥
事件以来、音信不通になっていたパパやママとも連絡を取った。
「ママ‥あたし‥」
つくしです。そう言う前に、電話口のママは泣き崩れ
「ゴメンね。ゴメンね‥あなたにだけ辛い思いをさせて‥全て、ママとパパのせいなのに」
そう謝ってくれた。
あたしの中の蟠りが全て溶けて行く。
「また一緒に暮らすと頼っちゃうから‥一緒には暮らせないけど、今度こそつくしの味方だからね‥つくしの幸せを祈っているから」
一つずつ一つずつ、あたしは強さを取り戻して行った。
あきらさんの出張が増え、会社でもプライベートでも一緒にいる機会が減ってしまった事に一抹の寂しさが募ったけど‥1年以上、あたしの為に仕事をセーブしてくれていたのを知っていたから‥‥‥
これ以上、重荷になりたくなくて、寂しいと口にする事が出来なかった。
このとき、寂しいと口に出す事が出来ていたのなら、何かが変わっていたのだろうか?
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