被虐の花 31 あきつく
小鳥のさえずりに起こされて、あたしは眼を覚ます。
開け放たれた窓から、爽やかな朝の風が吹いている。
「つくし、おはよー」
既に起きていたヨーコが、あたしに声をかけてくる。
コーヒーの良い薫りが漂っている。
「アズも起きてるよ。今日は3人で道内巡りでしょ?」
あたしは、慌てて飛び起きる。
「そ、そ、そうだったー」
昨日は、しこたま3人で呑んだんだった。
なのに‥‥ひゃぁっ、恐るべし道産子‥とっても清々しい顔なんだ。
それもその筈かぁー何しろ‥この2人、お酒が強い。それも滅茶苦茶強い。
昨日、確か‥あたしが缶ビール2本、日本酒5合あける間に‥この2人、倍は呑んだよね?いやいや、ヨーコ3倍は呑んだ筈だ。
そんな心の声が聞こえたのか?
「つくしも、なまら強くなったけどねーまだまだ」
「うんうん。来たばっかの時は、弱かったもんねぇーすぐぐったらめいてたよねー」
「んだ、んだ」
「えぇーそうだっけ?」
「んだ、んだ。ぐったらめいて、あきらさーん好きーって、すぅぐ言ってたもんね」
「そうそう、んで、だはんこいて‥アズに抱きついてぇー」
「もぉッ‥お終い」
「つくし、顔赤くなってるよ。ぷぷっめんこいなぁー」
「んだねぇー」
2人と話しながら‥
あきらさん‥どうしてるかな? 会いたいなぁー
ただただ、会いたいって、思いが募ってくる。
あきらさんと‥会わなくなってもうじき1年になる。
最初の内は、寂しくて寂しくて仕方なくて、あきらさんを思って泣かない日は無かった。
一年の月日は、あたしを成長させた。
ちょっこし寂しくなっちゃう時はあるけれど‥
ようやく、一人で立っていられるようになった。
あきらさんに頼らなくても大丈夫。胸を張ってそう思えるようになった。
だけど‥‥ううんだから
牧野つくし 29歳 絶賛片思い中だ。
この恋、見込みは無いかもしれない‥
でも、あたしはあきらさんを愛してる。彼の全てを愛してる。
栗色の瞳も、髪も、ううん頭の天辺からつま先まで愛してる。
なんなら、どんな風に素敵かって教えてあげようか?
なんなら、どんな風に首ったけかって話してあげようか?
そんなことを、全世界に向けて発信出来るくらい愛してる。
あきらさんを想って、ニッコリと微笑んだら
「あっ、つくし‥またあきらさんの事かんがえてたでしょー」
「ぷぷっ、なまらめんこい顔になってるよ」
「はいはい。考えてましたよ」
「おっ、開き直り?」
「ぉおー こそばい こそばい」
「んだんだ。これ以上付き合ってても仕方ないから、そろそろ出掛けようか?」
沢山遊んで、沢山食べて、心の底から沢山笑う。
夜の日課は、月を眺めながら、あきらさんに手紙を認める事だ。
今日は、道内巡りで手に入れた、ラベンダー柄の便箋と封筒に文字を認める。
あきらさんを感じるだけで、あたしは幸せな気分に包まれる。
凄く愛してる‥
うん。あたしは、あきらさんになまら惚れてる。
三日月お月さんが、澄ました顔で輝いている。
お澄まし顔のお月さんを見ていたら‥心の中にある思いが浮かんだ。
会えないなら、会いに行っちゃおうかなぁ~って‥
良いかな?いいよね?
うん‥いいよ。
あたしは、一人で頷いた。
もう、寄りかからずにあたしは、立てる。だから、あたしは会いに行く。
愛するあなたに会いに行く。
* なまら=凄く *めんこい=可愛い
* ぐったらく=意味も無く言う
*だはんこいて=だだをこねる
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