被虐の花 32 あきつく
居るわけが無いのに、自分で別れを決めたのに‥
渇いた笑いを口の端にのせ、起き上がる。
彼女を失う事が、どれだけ自分の人生をツマラナくさせるか、どれだけ無意味なものにさせるか解っていた筈なのに‥覚悟していた筈なのに‥
全てを思い出し、少しずつ立ち直る彼女を見るのに喜びを感じた。
相反するように‥いつまでも俺に縋って欲しいというエゴを感じた時、俺は決意したんだ。
つくしの笑顔を、つくしの人生を‥きちんと取り戻させようと。
その為には、俺に依存させてはいけない‥手を放し、きちんと自分で立っていられるようにしなくてはいけないと。
主治医の先生とは、何度も、何度も話し合った。
時期が早くても遅くてもいけない。慎重を期して時期を決めていった。
主治医の先生が地元に帰られるとの話をされたので、時期を合わせてつくしの生活拠点を決定した。
北海道‥広い大地のように、おおらかな道民性だ。
〝3日住めば道産子〟の土地柄で、よそ者に対して寛容な土地だ。
なのに郷土愛が強い土地。自然に恵まれ食べ物も美味しい。つくしならこの街を絶対に好きになる。
狂おしいほどに、つくしが好きだ。
だから‥手を放そう。
司に、類に、総二郎にそう報告した時
真っ先に口を開いたのは、司だった‥
「牧野は、それを望んでいるのか?」
「今は、望んでない‥かな‥」
「だったら何故だ?何故‥そのまま自分のものにしないんだ」
「俺は、つくしの太陽のように笑う顔が好きなんだ‥だからかな‥」
「綺麗事だ‥」
「かもな‥でも、それが俺の愛し方だ」
「それでいいのか?」
総二郎が俺に問うて来る。
「あぁ‥」
ソファーに気怠気に凭れ掛かっていた類が起き上がり
「俺、そんなの気にしないでモーションかけるよ?」
類の言葉に苦笑が漏れる。
「つくしが本当の笑顔で笑えるようになったら、ぜひそうしてくれ」
強がりなのだろうか?
いいや‥つくしが本当の笑顔を取り戻し、一人で歩いて行けるようになった時に選ぶのなら、俺は諸手を挙げて祝福しよう。
心は痛む事だろう。その時は、グデングデンに酔っ払って管を巻いて、こいつらを困らせよう。
「あきら‥バカだよな」
「あぁ、大バカだよな」
「そうだな‥‥流石‥癒しのあきらだな」
「それって、貶してんのか?褒めてるのか?」
そう聞けば‥3人が揃って笑う。
司がポツリと俺に言う。
「牧野が本当の笑顔で笑えるようになった時、選ぶ相手があきら‥お前だったら俺は喜んで祝福するよ」
横から
「えぇっ“ 俺だったら祝福しないってこと?司、それって差別じゃない?」
類が口を挟み
「まぁ、俺ってことだけは無いから安心しろ」
総二郎がワケの解らない事を言う。
「「「当たり前だ!!」」」
3人の声が揃って、大笑いする。
つくしが‥いいや牧野が、俺等と過ごした学生時代のように‥
一頻り笑った後に‥
「俺も‥牧野に負けねぇように、一歩踏み出すよ」
そう言い残して、司が去って行く。
外に出れば、心地よい風が吹いている。
明日もきっと快晴だ。
空に向かって、伸びをする‥力一杯伸びをする。
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