被虐の花 33 あきつく
っん?なんかの撮影? 野次馬根性で覗いてみれば‥
眠りの国の王子様よろしく、類が眼を閉じて佇んでいる。
もしや‥あたしを?待ってた? って、あたししかいないか‥
うーーーん。この人ごみを掻き分けるのかぁー一瞬躊躇したけど、こんな所に置いておくワケにもいかない。
「類‥」
そう声をかければ、パチリと眼を開いて
「牧野~」
嬉しそうに笑いながら近づいて来る。
「どうしたの?」
「っん?そろそろコッチに来て一年でしょ?牧野不足になったから会いに来た」
「ぷぷっ‥ホント‥類は‥」
ポプラ並木を類と2人で歩く。
「あんた良い笑顔で笑うようになったね」
「ありがとう」
沈黙の後に‥唐突に類があたしに聞いて来た
「ねぇ、牧野‥あの夏の日、出会ったのがあきらじゃなかったら牧野はどうしてた?」
あの夏の日、出会ったのがあきらさんじゃなかったら?
考えた事も無かった質問に、あたしは惚ける。
類がクスリと笑って
「そっか、それが答えなんだね‥」
「まっ仕方ないか‥‥取りあえず今晩は俺に付き合って、美味しいものツアーに行こう」
「あっ、うん」
たらふく食べて、たらふく呑んで
「おぉー、牧野あんた随分と強くなったね」
とビックリされる。
帰り際‥類があたしを抱きしめる。
「‥類‥?」
「これでお終い。あっ、明日はさぁ、司が来るから司に付き合ってあげてよ」
手を挙げて去っていく‥
明朝早くに、チャイムが鳴って出てみれば‥類の宣告通り‥道明寺が立っている。
「おぉっ」
「あっ、おはよう‥あっ、あの‥あたし、これから会社なんだけど‥」
「お前の上司には了解済みだ」
「えっ?」
「って、ことだから‥今日一日俺に付き合え」
青空の下を2人で歩く。
「俺、お前とこうやって歩くのが夢だったんだ‥‥」
「‥‥」
「俺が、お前を好きになっちまったばっかりに、お前の人生狂わせちまったよな‥‥ごめん‥」
「‥ううん‥道明寺のせいじゃないよ‥」
「お前相変わらずだよな‥」
道明寺を愛していた日を思い出す。
幼いながらも一生懸命にこの男を愛していた日々を。
「あたしこそ‥急に消えてゴメンね」
道明寺が、強くあたしを抱きしめる。
「今ならババァにも誰にも反対はさせはしねぇ‥なぁ、俺と2人で生きていかねぇか?」
あたしは、ゆっくりと首を振り答える。
「ごめん‥あたし‥絶賛片思い中なの」
「ハァッー そうだよな‥ワリぃ、最後の悪足掻きしちまったな」
そう言って、封筒を手渡してくれながら
「‥お前、明日から2週間有給だから」
「えっ?」
「俺様が振られたんだ。最後ぐらい俺の言う事聞けよ。俺も新しく踏み出すからよ。なっ」
勢いに釣られて思わずコクンと頷いていた。
道明寺と別れて、封筒の中身を見てみれば‥あきらさんの連絡先が入っていた。
家に帰り‥連絡先を眺める。
会いたい‥会いたい‥会いたい‥‥
うんっ。明日会いに行こう。あたしは決意して旅行鞄に、荷物を詰めて行く。
「ヨシッ 準備万端!」
そう声に出した瞬間‥チャイムの音が鳴る
「っん?」
今度は誰?恐る恐る出てみれば
「お久しぶりでございます」
「ヨッ、牧野」
桜子と西門さんで……有無を言わさずに車に押し込められる。
「あっ、あの‥」
「明日一番の神戸行きチケットです」
ニッコリッと笑って手渡される。
「まぁ、今晩は久しぶりに3人で飲もうや」
飲めや歌えやで、すっかりいい気分のあたしは
「あきらさん‥なまら好きー」
と大きな声で叫んでは、桜子と西門さんに大笑いされた。
翌朝、2人に見送られ飛行機に乗りこんだ。
あたしは会いに行く‥‥
愛しいあなたに会いに行く。
*次回いよいよ最終回。
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