月夜の人魚姫 03 総つく
マネージャーに出迎えられて、個室に案内される。
「ミュウ、ちょっと待って」
髪についた花びらを遊が取ってくれる。
「ありがとう」
刹那‥
ふわりと嗅覚を刺激する匂いが薫り立つ。
官能を刺激するように、仄かに漂うお香の薫り。
顔を上げた瞬間、女を侍らした男が、射る様な眼差しであたしを見ていた。
素知らぬ振りをして、ゆっくりと目線をずらす。
慌てないように、可笑しな所がないように、ゆっくりと‥
男の唇が、小さくでも、はっきりと『まきの‥』そう呟いている。
牧野つくしは、もういない。
あたしは、ミュウだ。心の中でそう繰り返しながら。
なおも見続ける、男の横を通り抜けようとした瞬間‥
男が、マネージャーに挨拶を交わしながら、遊とあたしに視線を投げかけて来る。
遊が視線に気が付いて
「西門の若宗匠でいらっしゃいますよね?お初にお目にかかります。私、シレーヌの一ノ瀬遊と申します」
ニッコリと優雅に笑う。
「お噂は予々お伺いしております。私、西門総二郎と申します」
男の目があたしを捉えて離さない。
遊が、あたしに振り向きながら
「ミュウ‥ご挨拶を」
あたしは、真っ直ぐに男を見つめ返しながら、挨拶をする。
「シレーヌの倉科未悠と申します」
この8年で身につけた美しい所作に、微笑を漂わせ挨拶をする。
「倉科未悠‥さん?」
「えぇ‥倉科未悠と申します」
牧野つくしでは、見せた事のない笑顔を作り、もう一度笑う。
目の前の男は、呆けた顔をしながらあたしを見つめながら
「大変しつれいですが、未悠さんの所作は、西門の所作ではありませんか?」
「流石、若宗匠でいらっしゃいますわね。はい、母がお免除を頂いておりますので、その関係で習わせて頂いております」
男の眉がピクリと上がり
「お母様は、西門のどちらの支部でいらっしゃいますか?」
「金沢になります。若宗匠とご挨拶をさせて頂いたと話したら、さぞ驚くと思いますわ。」
ニッコリと微笑めば
如才ない笑顔で
「それでしたら,是非秘書に申し付けまして茶会の案内を送らせて頂きます」
その言ったあとに、時間をとらて頂いて申し訳ないと言いながらこの場を去って行った。
バタンッ
遊と2人きりに、なった瞬間
「ミュウ‥さっきの男とは知り合い?」
「うーーん。ミュウの知り合いではないよ」
「そうかぁ‥‥つくしの知り合いか」
「うん。そうかな‥出来れば、あんまり会いたくなかった人達の一人かな‥‘」
だから、東京には戻ってきたくなかった。そんな思いが頭を過る。
シェフが、部屋に入って来て、目の前で食材を調理していく。
美味しそうな、香りに包まれながら‥‥
あの日の事が、蘇っていく。
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