バカ言ってるんじゃない 12 司つく
「花沢専務!こないだはありがとうございました。お陰で助かりました」
俺そっちのけで、牧野が嬉しそうに類と話してやがる。
こないだって何だ?こないだって?
それにだ、お前のパートナーは、俺だぞ俺!
そう言おうとした瞬間、狸おやじに声かけられる。
‥その間に、あいつら2人が消えていた。ものの見事に消えていた。
慌ててスマホを鳴らしても‥‥圏外だと告げて来る。
「どこ行った?」
役立たずのSPは、誰一人として牧野の所在を掴んじゃいない。
心がザワザワと音を立てている。早く探し出さないとイケナイと音を立てる。
牧野、牧野はどこだ?
バルコニーに出て辺りを見回すと目に入って来たのは、牧野と類が何やら楽し気に話す姿だ。
類が牧野の頬に手を添えた。
全ての時間が静止して‥‥俺は、踵を返していた。
会場内に戻ってみれば、五月蝿いほどに色んな奴らが声をかけて来る。
さっきまで、キラキラと輝いてた全てのものが無機質な物体になっていく。
「ごめん、道明寺」
牧野がご機嫌に戻ってきて、何事も無かった様に俺に声をかけてくる。
俺は、類に近づく為の踏み台って奴だったのか?
コイツも他の女と一緒で、金や名誉、容姿に弱いって奴か?
心の中を虚しい風が吹き荒れていく。
だから、女は信用出来ない。
だから、女は嫌いだ。
「ねぇ、なんか具合でも悪い?」
「‥‥」
「ねぇってば」
「‥‥」
俺は、ガキのように押し黙る。
我ながら大人げない。そうわかっているのに押し黙る。
「具合悪い?熱でもある?ねぇ大丈夫?」
俺の顔を見上げ、手を伸ばしてくる。
額に手が触れられた瞬間、牧野の手を払いのけていた。
牧野は、驚いた顔をしながら慌てて手を引っ込める。
「‥ご‥ごめん‥なさい‥」
脅えた顔をする女を見た瞬間、さっき見た光景が蘇る。
「お前、俺のパートナーで来てんのに、勝手に居なくなるわ、挙げ句の果てに男に媚売ってるわ、とんだ淫乱女だよな」
今にも泣き出しそうな顔を浮かべながら、ドレスの裾を翻し去って行く。
泣きそうな顔を見た瞬間、チクンっと胸が痛んだ。
胸の痛みを振り払うように、俺は酒を煽る。
自分の部屋に帰る気にならず、ホテルの部屋で酒を呑む。
幾ら飲んでも頭の芯が醒めている。いや、呑めば呑む程に頭の芯が醒めていく。
瞼を閉じれば、牧野と類の仲睦まじ気な姿が浮かぶ。
ガッシャーン
壁に投げつけたグラスが、派手な音を立て砕け散る。
砕け散ったグラスのように、俺の心も千々に乱れる。
牧野の怒った顔
困った顔
飯を美味そうに頑張る顔
ニコニコと笑う顔
そして‥
数時間前に見た傷ついて今にも泣きそうな顔を思い出す。
「牧野‥」
アイツの名前を呟いて、俺は気が付いた。
牧野が好きなんだと言う事に。
「ははっははっ」
笑い声が喉に張り付いていく。
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