月夜の人魚姫 05 総つく
秘書に頼んで、倉科未悠、一ノ瀬遊この2人にの事を調べてもらった。
一ノ瀬遊‥‥一ノ瀬新造の孫にして、シレーヌのオーナー社長。一ノ瀬財財閥の次期後継者だと噂されている人物だ。
倉科未悠とは、公私と共にパートナーだと噂されている。
シレーヌは、本拠地を金沢に置いている。
事業拡大と一ノ瀬を本格的に後継する為に、東京に戻って来たようだ。
倉科未悠‥‥洋画家 倉科豪、雪夫妻の一人娘。
倉科家は、金沢では知らぬ人がいないほどの資産家の家だ。
ここ7年程は、もともとの出身地である金沢に落ち着いているが、それ以前は、家族揃って海外を転々と暮らしていたと書かれている。
倉科未悠は、牧野つくしじゃなく他人の空似なのか?
「戸倉、このお二方に、次の茶会への招待を出しておいてくれ」
そう頼んで席を立つ。
不埒な男の仮面を被り、己の渇きを癒すために‥明日になれば、名も忘れてしまうような女を抱き、享楽に耽る。
* **
「ミュウ、はい」
「っん?」
遊がクスリと笑いながら、封書を差し出して来る。
宛名には、西門さんの名前が記されている。
「うわっ、早速だ‥」
思わず呟いていた。
もう一度、西門さんに会うのかぁ‥‥
「きっと疑ってるよね?」
「そりゃそうでしょ。現に本人だしさ」
楽し気に遊が笑う。
「遊、もしかしたら楽しんでる?」
「そりゃぁね」
クスクス笑う遊の足を思い切り踏む。
「痛っ」
「あたしは、憂鬱で溜まらないんだからね」
どんなに憂鬱だろうが、どんなに週末なんて来なければいいと思おうが、その日は訪れる。
「ミュウ‥大丈夫だよ」
「うん‥」
鏡に映るあたしは、牧野つくしの面影は残すものの別人だ。それなのに‥流石西門さんだなとぁ‥と感心する。
大丈夫。普通ならわかりはしない。
あたしは、倉科未悠だと心に言い聞かせ西門に向かう。
西門の邸は、以前と変わらず重厚感に満ち溢れている。
懐かしさで一瞬泣きそうになる。
「ミュウ‥顔を上げてしゃんとして」
遊が、あたしの手を握り小さな声で発破をかけてくれる。
もう一度言い聞かせる。あたしは倉科未悠だと。
牧野つくしじゃない完璧な所作と、笑顔を作り倉科未悠になりきる。
そうやって生きて来たんだ。
大丈夫。自分に言い聞かせる。
懐かしい面々を見かけながら、倉科未悠として会釈を交わす。
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