シーソーゲーム 52 類つく
嫉妬に駆られ、無体な事をしてしまったと後悔が胸に押し寄せる。
寝入るつくしを抱きしめようとした瞬間‥
つくしの口から‥小さく小さく言葉が漏れる。
「‥るい‥」
愛おしそうに、男の名前を呟く。
初めて、この女が憎いと言う感情が湧き出て来る。
押さえても押さえきれない程に、憎悪が沸いて来る。
愛おしい‥なのに、憎らしい。
つくしの心が俺のものになるのなら、喜んでこの命を差し出そう‥
そう強く願うのに、つくしの心は俺を求めない。
愛してるからこそ、手に取るように分かる。
俺がどれだけ求めても、つくしが男としての俺を求める事はないと言う事が。
薄く笑いが漏れる‥‥
そんな事は、百も承知だった。
つくしが男としての俺を求めなくてもそんな事構わない。
愛には、色々な形があるのだから‥‥
穏やかで緩やかな愛を育てればいいと思っていた。
もう一度、徹底的に調べ上げた。
渡航記録は、捏造だった。消息は分からない。
だけど類はフランスになど行っていない。
もう一つ分かった事、
つくしへの違和感を感じた丁度その時、類がNYに来ていたと言う事だ。
奴の行動の詳細は分からない。
だけど‥俺は全てを確信した。.
やっぱり類だったんだと。
まるで、道化だ‥
つくしは、俺を裏切った。
いや、いまこの瞬間でさえ裏切っている。
憎い‥憎い‥憎い‥
だけど、愛してる‥
哀しい程に、狂おしい程につくしを愛している。
つくしは、俺の中のパンドーラを開けた
醜い心が沢山つまったパンドーラを。
類を彷彿させる香りを身に纏いながら、
無邪気を装いつくしが微笑む。
「良い香りだね。なんの香り?」
「夏みかんのアロマオイルなんだって」
「つくしに良く似合う香りだね」
この香りを感じる度に、
憎悪がこみ上げるのに、俺は微笑む。
ゆみさんが一枚噛んでいるのだろうか?
邪魔をするなら、すればいい。
俺からつくしを奪おとするものは、排除するだけだ。
一生、逃がしはしない。
憎くて、愛おしい俺の宝物だから。
一本の電話をかける。
「‥‥えぇえぇ‥お願いします‥
はい‥えぇ‥
日本に帰る日にちを少し早めますので、
えぇ契約自体も‥はい。では‥」
明日の朝、つくしに告げよう。早めに日本に帰ろうと。
そして‥自由をあげよう。
そうさ‥‥最後の自由をね。
卑怯者だと言うのなら、そう罵ればいい。
男として愛せないなら、愛さなくたって構わない。
だけど‥俺はつくしを手放さない。
一之宮という鳥籠の中に、つくしを閉じ込める。
愛しい女を抱きしめながら、俺は眠る。
抱きしめていた温もりが消え、目を覚ます。
腕の中は、空っぽで恐怖が襲って来る。
冷たい一筋の風が吹いて来る。
つくしが外を見つめ立っている。
俺の知らない‥大人の女の顔で佇んでいる。
「つくし、冷えちゃうよ」
「あっ、うん‥」
ストールを羽織らせ、肩を抱きしめベッドに戻す。
愛おしさと憎しみが交互に押し寄せてくる。
つくしを手に入れるまでのカウントダウンが始まる。
月、火、木、金 12時更新


♥ありがとうございます。とっても嬉しいです♥
- 関連記事